◎粟楠会幹部の友人
来良高校に入学する前に昔の印象を消すために髪色と髪型を変え、ショートでアシメにしてみた。黒髪でサイドだけ赤。
私のこの両目よりはくすんだ赤だけど、まあまあ気に入った。
染めるのは静雄にやってもらった。高校時代にプリンになってたとき私が染めてあげていたからとか何とか言ったら快く了承してくれました、まる。
「でもお前来神…」
「臨也とおんなじことを言うねェ。私さ、長い間生きてるから色んなとこにコネあるんだ」
「なるほど」
みたいな会話を交わしたことを思い出し、私は意気揚々と来良高校の門を潜った。
♂♀
無事入学式が終わり、中庭に出るとクラスが発表されていた。クラスは私が若干仕込んだので一応形式だけでも見るふりをしておく。
正臣くんと同じクラスだ。
正臣くんとは正直これっぽっちも接点がないのだけど、臨也のお気に入りの1人だと聞いたので興味があるのだ。
竜ヶ峰くんは正臣くん繋がりで接触をしようと考えている。
さーて、みんないなくなってきたし教室に戻ろうかなと足を運ばせてみれば、後ろから静止の声が聞こえた。
「何だ、その髪の毛は!新入生だろう、しっかりしろ!」
「んー…?」
「確かお前は…名字名前!明日髪の毛を黒にして職員室に来い、絶対だぞ」
「えー…、せっかく気に入ったのに」
「気に入ったとかの問題じゃない!明日戻さなかったら親御さんに電話するからな!」
「私の親…?あー、多分忙しいからでないと思いますよォ」
「何の職業をされているんだ?」
「粟楠会幹部。えー、でも私養子みたいなもんなんでェ、言っても無駄だと思います」
「あわく、…!?」
「ここらへんの人は大体知ってますよね?あー、良かった知名度ある人選んで」
「か、髪の毛はもういいから教室に戻りなさい!」
「はーい」
さっすが四木さんパワー。四木さんの名前出せば大抵のことは通るような気がする。
遅刻したかも、なんて頭の片隅で考えたが、どうでもよかった。ガラッとドアを開けてHR中の教室に入る。「先生とお話してたら遅れましたあ」フラフラと正臣くんの隣の席に着席する。これも私が仕組んだことだ。
生徒たちの視線が突き刺さったが、これも来神時代に比べたらどうってことない。来神時代はもっとこう…忌むような目で見られていた記憶がある。
自己紹介するのか、なんて考えながら私は自分の順番を待つ。
「はじめまして、名字名前でっす。こんな見た目ですが、中身は怖くないので安心してください。えー…、帰宅部なんで良かったら遊び誘ってください」
こんなもんで良かっただろうか。そういや来神時代も帰宅部だったなァ。どんだけやる気ないんだよ。臨也が静雄を無理矢理美化委員会に入れたときは笑った。
無意識に右手を煙草をいれてあるポケットに入れようとしていたのか、正臣くんに押さえられた。そして飛んでくるウインク。
…なんだこれ、接触成功?
HRが終わるとすぐに正臣くんに話しかけられ、「高校生があんなもの吸ってちゃダメだぞー?まあ俺はぁ?そんなとこにもぐっときちゃうんだけどぉ!」なんて言われた。なんだこのテンション。
「あー、うん。はじめまして。私は名字名前。よろしく、紀田くん」
「正臣、またはダーリンって呼んでくれ。名前ちゃん?」
うわ、ちゃん付けで呼ばれるの久しぶりだ。
「ところで正臣くん、何で私が煙草持ってるって知ってたの?」
「愛ゆえさ!」
「…………うん?ああ、はいはい」
「冷たいっ!てかさ、さっき遅れて入ってきたのってあれだろ?髪のことだろ?何があったの?」
「正臣くんは鋭いなァ。なんか注意されてねー。まあ大丈夫だったから平気」
「さっき呼び止められてた先生、厳しいって有名だぜ?」
「何で君がそんなとこ見てたのか私は不思議に思うよ。まあ、あれだよ。親の力ってやつ」
「へえ、誰々?俺知ってる?」
「四木さん」
「んー、何やってる人?」
「粟楠会幹部だよォ。ま、養子みたいなもんだけどね」
「…あ、粟楠会ってヤクザじゃん!じゃあ名前ちゃんってお嬢って呼ばれてんの?」
「……正臣くーん?」
私が気づかないとでも思ったのか。何百年生きていると思っているのだ。
粟楠会という名を聞いた瞬間、正臣くんの表情が僅かに固まった。それを見逃すとでも思ったのか。
「怖がらなくてもいいよ。私は親がいないからさ、前に親交があった四木さんに引き取ってもらっただけなんだ。私自身はヤクザじゃないから、怖がらないでくれると嬉しい」
「いや、そんなんじゃねーんだ!ただちょっとびっくりして!それにこんな可愛い女の子を怖がるなんて、ナンパマスターの名が廃るぜ!そうだ、一緒にナンパしに行かない?帝人ってやつもいるんだけど」
帝人――竜ヶ峰帝人。
私は楽しみを抑えきれずにニヤリと笑った。
「いいよ」
20110824
mae tsugi
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