◎池袋の支配人
池袋には《支配人》(マスター)と呼ばれる人間が存在する。その名は名字名前。彼女についてはいくつか興味深い噂があり、その一つが彼女が"不死身"だということ。
彼女は来神高校にいた頃も今も変わらない姿で過ごしており、そのまた昔もずっと同じ姿で存在していたと云う。それが作り話かはたまた出任せかは知らないが、その噂が"首無しライダー"と同じくらいに広まっているのは確かだ。
「嫌になっちゃうねェ、人を化物みたいに」
「化物じゃないか。見た目はただのヤンキーだけどね」
「カッコいいだろ」
「金髪に煙草にサングラス――シズちゃんもわかりやすいよねえ」
「サングラスは違うぜ?」
「シズちゃんに似合うって言ったんでしょ?」
「そんなこともあったねェ」
昔を懐かしみながら私はビルの屋上でスパスパ煙草を吸う。
臨也に体に悪いから近寄らないでと言われたので大人しくフェンスに寄りかかって街に煙を吐いた。
私と臨也は来神高校での同級生だ。静雄も新羅も京平も同級生だが、一番親交があるのはこいつ。
私は基本的に受動的な人間だから、必然的に積極的に関わってくるこいつと仲良くなってしまった。別にいいんだけどな。
「えーっと、で?何の話してたっけ?」
「今度自殺オフするんだけど、名前も来る?」
「死ね。私は死ねないんだから行っても意味ないだろうが」
「まさかこの俺が死ぬと思う?遊びだよ、遊び」
「相変わらず悪趣味なことしてんなァ。本当に死んでも知らねーぞ」
「うわ、くっさ!煙こっちに吐かないでくれない?俺の肺が汚れたらどうしてくれるの?」
「知ったことじゃねーよ。煙草を開発したのはお前ら人間だろ」
「煙草を開発した人間が今この目の前にいたら速効殺すね」
「さりげなくナイフこっちに向けるなよ」
「でも君死なないでしょ」
「不死身だからな。でも痛いものは痛いんだよぼっち野郎」
「誰がぼっちだって?」
臨也が本気で怒りだしてきたのでそっぽを向いて煙草をくわえた。
桜の匂いがふと鼻腔を擽った。ああ、もう入学式が近いな。
くるりと振り返ると私は煙草を落とさないように器用に口を開く。
「そういえば私、来良高校入学するから」
「…え?でも君来神……」
「知らなかった?私、来神の前の高校にも通ってたんだけど」
「あの都市伝説って本当だったのか」
「ん?ああ、そうみたいだね。今年もまたお前みたいな問題児が来る予感がしたから入ることにしたんだ」
「ああ、三人ほどね」
「何だ、臨也知ってたのかよ。臨也が言うならもう間違いないな。ってことで臨也のマンション住まわせてくれ」
「は?何で俺が」
「嫌なら静雄のとこ行くけど」
「ああ…わかった、わかったよ」
「ありがとう、お前ならそう言ってくれると信じてたよ」
「ぺてん師め」
「不死身だよ」
20110823
mae tsugi
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