◎死神明智と達観視
織田が桶狭間の戦いで今川義元を破ったと云う。私はそろそろか、と呟くと武器を無造作に捨てふらりと立ち上がった。ぼろぼろの着物にボサボサの髪。しかも女である私は不審に思われこそすれど、脅威には思われまい。
からん、ころん。安っぽい下駄を鳴らせば私は今にも野垂れ死にそうな可哀想な女。
隣にいる明智をちらりと一瞥すると、彼は非常に愉しげにくつくつと笑った。
「足利義昭もやられたようだよ」
「そうでしょうとも。彼を殺すのは私です」
「ふーん。義昭くん、とある武将のとこに居候しているようだけれど、そう長くはいられないよね」
「それは、彼を敵に回してしまったからには仕方のないこと」
「もう使えないなら片付けようか」
▽▼▽
「武田勝頼がやられたようだよ」
「当然です」
「長島の一向一揆でもそうだけれど、織田くんは罰を畏れないのかしら」
「罰、とは?」
「人を殺した罰」
それを聞くなり大爆笑した明智に苛立ちを覚える。「長篠合戦、か」彼の死に様がどうしても想像できない。彼は神に嫌われているようだ。
▽▼▽
「織田が死んだようだよ」
「そうみたいですねぇ」
明智はどこか愉しそうだった。それは少し狂っていたように思う。死神。彼の渾名。これほど彼にぴったりの言葉があるだろうか、いや、ない。
死神は神に嫌われた男を葬った。
実感がわかない。まだ生きているような気分だ。
「君は誰に殺されるんだろうね」
「あなたでも構いませんよ」
うそ。
だって、君は死なないでしょう?
20120215
mae tsugi
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