▼バーナビー
青い空、白い雲、煌めく波。
今日は恐らく神様がくれた美しい日なのだろう。
そう思わないとやっていけなかった。
「え?今なんて?」
「別れましょう、と言ったんです」
「いいよ…と言いたいところだけど、なんで?」
いやいや私としてもみっともなくバーナビーにすがり付くつもりなんかないのだけれど、急すぎてびっくりだ。
「冷めたからです。こんな気持ちでだらだらと関係を続けていても失礼でしょう」
「バーナビーにも一理ある。だが、それはあまりにも理不尽じゃないのかな?」
「すみません」
「謝ってほしいわけじゃないんだけどな」
私はバーナビーが好きだったけど、バーナビーじゃなくてはいけなかったわけではない。だから、未練なんかないのだけど。
でもこんなのあっけなさすぎる。なんてつまらないのだろう。
「バーナビー、君はこんなにつまらなかったっけか?」
「………」
「まあいい、お互いヒーローという忙しい身。仕事に支障を与えないようにな」
「ずいぶんと冷静なんですね」
「だって君にはそれほど入れ込んでないし。君のことはそれなりに高く買っているつもりだけどね、それだけだ」
「そう、ですか…」
なんとなく寂しそうな表情をしてバーナビーは言葉を絞り出した。なんでだろうか、別れを切り出したのは君のほうだろう?ねえ。
私はバーナビーの愛に応えた。バーナビーがそれを望んでいたから。
私は何も悪くない。
思うに、私もそれなりに彼を愛していたのだろう。だが私は自分の気持ちに恐ろしく鈍感なのだ。
「バーナビー、好きだったよ」
「僕も、愛していました」
愛していました。そう言ったところになにか引っ掛かりを感じたのだけど、どうせ最後だ、と、私は気にせずバーナビーの首に手を回し、そのままキスをした。唇を合わせばバーナビーの方からも舌を絡めてくる。おかしい。別れのときだというのにこうも情熱的なキスをするなんて。
おかしいおかしい。
この違和感の正体はなんだ?
「!」
そこでふと思い当たる、彼の熱狂的なファンの存在。『愛していました』タイガーのファンは穏健派が多いがバーナビーのファンは過激派が多いと聞いていたし、実際差し入れに髪の毛が大量に入っていたのを見たことがある。『こんなに人を愛したのは初めてです』バーナビーが冷めた人間にこんなキスをするはずがない。『一生守りますから』ということは――…?
彼が1人で私を守ろうとしていたとしたら?
彼は嘘を吐くような人間ではない。むしろ嘘を吐かないことを信条としているような人間だ。
「…ったく、下らないなあ」
「何がです?」
離れた唇を銀糸が繋ぐ。まるで、まだ繋がっていたいみたいだ。
「勝手に終わらせるなよ、バーナビー?君はやはり面白い人間だったみたいだね、合格だ!」
「一体何を」
「何を?そんなこと、君が一番よく知っているはずだけど。ねえ、゙私がそんな弱い人間に見える?゙」
その言葉にバーナビーはびくりと揺れた。どうやら私の仮説は正しかったらしい。
「すみません。貴女を守りたかったのです」
「いいんだよ、君の行動は正しく模範解答だ!でもね、私抜きで完結するな!私も話に入れろ!1人で悩んで1人で解決して、偏った見方しか出来ない愚か者が、なんて傲慢なの?周りを頼れ、信じろ。そうすれば君の世界はもっと広くなるよ」
「………はい」
「分かればよろしい」
「………僕はどうしたらいいんですかね?ファンの人も君も傷つけたくない」
「なぁに、簡単な話だ。私と別れればいい」
言ったろ。私が気に食わなかったのは私を話に入れなかったことそれだけで、君の行動自体は100点満点の模範解答だって。
君の気持ちなんて知ったことじゃないんだよ。
20110708
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