短編 | ナノ
▼匂宮

 殺戮は一日一時間なんて制限は僕にはない。殺したいときに殺戮して遊びたいときに遊んで食べたいときに食べて寝たいときに寝る。我慢なんて良くない。まあ出夢と理澄に比べて殺人衝動が強くないから平気なことなんだけど。
 そんな僕が我慢してるって相当なことだと思うんだよね。

「…ぎゃは、油断してたつもりはないんだけどな」

 目の前にいる男の腕の中には僕の足が収まっていた。ちなみに分割済みであまり精神上よろしくない光景である。彼――トラファルガー・ローとはここシャボンディ諸島へ来る前に少し一揉めしたからあまり関わりたくなかったのだが、関わってしまったものは仕方ないね。僕は諦めのいい人間であるからして、ここはどう切り抜けようか考えることにする。って言ってもまあ足の一本や二本、くれてやったところで僕の障害にはなりやしないんだけどさあ。

「よお、久しぶりだなピエロ屋」
「そのだっさい渾名やめてくれない?」

 悠々とした足取りで近づいてきたトラファルガーににっこりと笑って唾を吐いてやる。しかしそれがお気に召したようで、トラファルガーは楽しそうに笑みを深めるばかり。ごめんねドМは専門外なんだ。
 僕が抵抗出来ないと思ったのか、彼は僕の顎をくいっと持ち上げた。イケメンにしか許されない動作だ悔しいのう。「どうだ、答えは決まったか」なんて余裕たくたくに訊いてくるものだから、まあ反抗心が湧いてくるよね!

「僕の隣は今も昔もこれからも、釘バット振り回す鬼の指定席なんだよね。まあつまるところ、お前の居場所なんてどこにもねーんだよ」

 僕の所属する組織は殺戮奇術匂宮雑技団。足がなくたって腕がなくたって誰だって殺せなきゃやってけないんだよ。なんたって僕は最高傑作の失敗作。

「僕に勝てるとでも思った?ぎゃはは、僕に勝つにはあと2億人ばかり足りねーよばああああああっか!!!!」

 八重歯を剥き出しに笑い、純度100%の殺気をお見舞いしてやる。殺人鬼と殺し屋っていうのは全く違うのこれ豆知識ね。どちらにも属している僕は、まあ大将と同じ感じってことで。
 トラファルガーに思い切り叩き込もうとした瞬間、何者かが間に入った。只者ではないだろう。が。

「……へえ、僕の邪魔をするんだ?X・ドレーク。僕なんかよりもよっぽど"正義"っぽよ」
「……」

 皮肉を叩いた僕の方を無視してトラファルガーに向かったドレークは「何人殺した」なんて言われていてざまあみろと思った。私よりもトラファルガーの方が何倍も性質悪いからね。たぶん。

「ま、とりあえずルーキーはもうみんな揃ったみたいだ!ここ、シャボンディ諸島に!モンキー・D・ルフィ、ロロノア・ゾロ、トラファルガー・ロー、ユースタス・キッド、キラー、バジル・ホーキンス、スクラッチメン・アプー、X・ドレーク、ジュエリー・ボニー、カポネ・ベッジ、ウルージ。――これも、狐さんの言う通り、バックノズルなのかもしれないね」

 僕らは出会うべくして出会った。ここで出会わなくてもどこかで絶対に出会うことになっていた。

「おい、ピエロ屋。お前の目的は何だ」
「ん?フン、『お前の目的は何だ』…か。僕はただ物語を面白く楽しみたいだけだよ。そのためなら進めることだってかき混ぜることだってやるさ」

 《人類最愛》の人生がつまらないものであっていいはずがない。
 ――ねえ、そうでしょ、アス。


20150219



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