▼零崎人織
電話がかかってきた。のはまだいいとして、時間帯は午前四時。こんな時間帯に電話をかけてくるような非常識な奴には残念ながら一人心当たりがいた。別に電話に出なくてもいいのだが、出なかったらあとで面倒だ。
電話に出ると、相手は泣いていた。うんざり。また小一時間ほど彼の泣き言に付き合わせられるんだ。
何で泣くのかが分からない。私の仲のいい友達を殺してしまったというところから始まったと思う。だったら殺さなければいいと言ったのだが、私と仲良くしていると思うと殺さずにはいられないんだと。だったら泣くのをやめてと言えば、でも名前がそのせいで悲しんでしまうと言う。何が狂っているのかよく分からなくなってくる。
私は人の生き死にには全く感傷しない。というのも、倫理観というものがすっぽりと抜け落ちているからである。帰宅したら母親がリビングで首を吊って死んでいた。それを見てから「人の死って軽い」と考えるようになり、人が死ぬのは当然だという常識が身について今の私に至る。人が死ぬのは当然だから、私の親友だった子が死ぬのも当然。当然のことに、悲しむことはないよね?ということだ。
「ごめん、……ごめんな、名前」
「いいよ、気にしてないから泣かないで」
「ほんと、優しいな」
優しくなんてねーよ。ただこうしないと君あとで煩いだろう。名前、俺のこと嫌い?と聞かれるのももううんざりだった。
着信履歴もラインの最新も全部人識くんだ。君どれだけ私のこと好きなの。私はちょっと鬱陶しいと思っていたりするよ。
今度は家の前で待つようになった。というか私、君に家教えていないんだけど。家の前で待たれてはもう私になす術はない。大人しく家へ上げると人識くんは光のない目でうっそりと微笑む。怖い気もしたが、さすがに何もしないだろうと思いシャワーを浴びに行くと、人識くんもなんと入ってきやがった。これは忌々しき事態であると人識くんを睨みつけると、彼は私に睨まれた事実がショックだったのかその場で泣き崩れた。おいおいおい。
「ごめんよ、とりあえずそこから出ていってくれないかな」
「……そうか、照れてるんだな、可愛い」
とうとう話が通じなくなってしまった。涙を流したぐちゃぐちゃの顔のまま全裸の私に近づいてくる人識くんの目はこの上なく据わっている。
「俺だから良かったけど、他の男なんて家に上げたら許さないからな。こうして襲われたら大変だろ?」
大変なのは今だ。しかし私の口から声が漏れることはなかった。喉を締め付けられて声どころか息が出来ない。
そのまま荒々しく口に舌を捻じ込まれ、呼吸の出来ない私は口を大きく開けることしか出来なかったのだが、それも全て人識くんの唇に覆われてしまい、酸欠寸前だ。
「大丈夫、優しくするかんな」
かはは、と笑った声を聞きながら私は意識を手放した。
そして再び目を開けた時には下腹部に嫌な違和感を感じ、そして私の足には枷が嵌められていた。
20150123
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