短編 | ナノ
▼東堂

箱学で、笑わないと評判の女子生徒がいた。そんなに噂をされていて、もしかしていじめられているのかと思えば、そうではない。ただ、遠巻きに見られているだけのようだ。
まあ、気持ちはわからんでもない。
その女子生徒は目が痛くなるような紫の髪をしていた。


「――おい、お前」
「なにッショ」


声をかけただけなのにそんな不機嫌そうに睨まなくてもいいじゃないか‥。
細い目つきに病的に白い肌。おまけに制服から伸びる手足は異様に長い。まるで巻ちゃんだな、と内心愉快に思いながら、俺は女子生徒に構い続けた。


「なんでそんなにいつも仏頂面なのだ?」
「‥‥‥」
「聞こえないぞぉー? 大きな声で話すまで引き下がらんからな!」
「‥私の笑顔、キモいッショ」


驚いた。これは本当に巻ちゃんのようではないか。
試しに笑ってみろと言えば、俺の顔はさらに弛んできた。これはあとで巻ちゃんに電話をしなければならないな!


「わっはっは! やっぱり巻ちゃんにそっくりだ!」
「巻ちゃん‥? 巻島祐介‥?」
「むっ! 巻ちゃんを知っているのか?」
「知ってるも何も、私の名前、巻島名前ッショ」
「‥なにィィイ!?!? この俺としたことが、巻ちゃんの家族が箱学にいたというのに三年間も何をしていたのだ‥ッ!」
「毎日ゆうくんからお前の愚痴聞いてたッショ」
「巻ちゃん!?」
「‥ま、ゆうくんと走るの楽しいとも言ってたから、おあいこッショ。あんなに楽しそうに笑うゆうくん見たの初めてだったから、お前が山登れて良かったッショ」


巻ちゃんと同じで変な笑顔を浮かべたと思ったら、心から楽しいというような笑顔も同じか。


「あ、でも、カチューシャはねーッショ」


‥あと性格も巻ちゃんと同じかもしれない。



20140320



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