短編 | ナノ
▼御堂筋翔

好きで好きで意味わかんない。それくらい好き。愛してる。言葉にすると安っぽくなっちゃうから口には出さないけど、本当に大切なの。ねえ。ちゅーして。んふふ。ばか。うそだよ、かわいいねあんた。抱きしめるたびに固まる身体全部がいとしいよ。すき。


「――なあ、キモいんやけど」
「んー?」
「ボクのことそんなに見られてもキモいで」
「うん」
「キモッ」


キモくてもいいんだよ全然。あんたの隣に私がいることが許されて、それなりにしあわせに暮らせていられているのだから、私はなにもこわくない。ただひとつこわいのは、御堂筋、あんたに嫌われることだけなんだよ。あんたは知らないだろうけど。

ライターで火をつけようとしたけど、やめた。この間御堂筋に「煙草の煙でボクに影響があったらどうするん?」と怒られたからだ。さいわい、私はヘビースモーカーではない。もうこれも捨ててしまおうかとラキストをゴミ箱の中に投げ入れた。ナイッシュ。体育の苦手な御堂筋の放った歪な放物線を思い出して少し笑った。


「‥捨てるん?」


ソレ、と御堂筋は私が先ほど放ったラキストを指す。


「うん。私には必要ないものだから」
「ふうん、前の彼氏のちゃうの?」
「さあ、今の私には関係ないことだし、御堂筋も煙草嫌いでしょ?」
「当たり前や。ボクはスポーツマンなんやで?」
「うん。だから、要らないの」


煙草は確かに前の彼氏が吸っていたものを私が吸うようになったものだ。女性にはまるで似合わないラキスト。ピアニッシモみたいな可愛らしいものではなかったから、男の影響であることはほぼ確実にばれていたらしい。
そこで私はふと動作を止めた。
前の彼氏に対して少しは嫉妬をしてくれたのだろうか?

だとしたら、それはとても嬉しい。


「御堂筋。ちゅーして」
「嫌やわキモい」
「嫉妬してくれたんでしょ?」
「‥‥‥」


すごく嫌そうな顔をされたけれども、私はそれでも嬉しい。真っ赤な耳が、それは照れ隠しですよと教えてくれる。


「御堂筋、今度の日曜日はどこかに遊びに行こうね」
「‥ええよ、名前ちゃんの好きなとこ、どこでも」
「夜は夜景のきれいなところがいいな」
「そらええなあ」
「それで、一緒に家まで手を繋いで帰るの」
「‥‥‥勝手にしい」
「うん」


好きすぎてどうにかなっちゃいそう。あんたのせいだよ。責任とって、ずっと私を隣にいさせてよね。すきだよ。だいすき。あいしてる。あんたも同じ気持ちでいてくれたら私、もう死んでもいいわ。


20140223



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