▼トキヤ
「もしトキヤが春歌ちゃんのことを好きならさあ、私はそれをとても嬉しいことだと思うし、両想いだねおめでとうって言いたい。でもねえ、少しだけ。少しだけ、悲しいよ」
私、1人になっちゃう。
涙を流さないように必死に目蓋をこじ開けていたのだが、トキヤが私の頭をぽんぽんと優しく撫でた瞬間、その努力は全て意味のないものになってしまった。いつも、そうだ。何かを失いたくなくて我慢をしても、絶対に横から現れた"なにか"が私の失いたくないものを掠め取ってしまうのだ。
いやだ、いやだよ。私、1人になるのは。
「私、トキヤのこと好きなんだよ…?」
幼なじみという特権が疎ましくなったのは一体何時からだったのだろうか。
一番近くにいて一番遠くにいる存在。
春歌ちゃんは近づける、その境地。
「春歌ちゃんはずるいよ。私の大事なもの、全部とってしまうもの」
「………」
「私だって、トキヤに愛されたかった」
へらりと笑ってトキヤに抱きつく。細身だけど、しっかりとした体つき。男の子なんだなあって、意識しだしたのはもうずいぶんと昔の話。
気がついたときにはHAYATOになっていてぼろぼろに傷ついていて春歌ちゃんが隣にいて。
もっと早く気づければ良かったなって、私、誰よりも傍にいたはずなのに。
「ねえ、トキヤ。春歌ちゃんのこと、好き?」
「………はい」
「そっか」
目を伏せて頷いた君はなんて優しいのだろうね。幸せにおなりよ。
私、君のことが大好きだったけれど。それはもう死ぬほど大好きだったけれど。
だからこそ、君の幸せを祈ることくらいはさせてほしいな。せめて君の前でだけは綺麗で在りたい。
それに、大好きな君が幸せになってくれたら、きっと私も幸せになれるのだろう。きっと、きっと。
本当は、君と幸せになりたかったのにな。
どうにかその言葉は声には出さずに口に押し込めて、代わりに瞳から透明な滴を1滴。
君の目は相変わらず優しい色をしていて、私はまた泣きたくなった。
20120104
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