▼真波
「ねえ、構ってくんないの?」
自由な真波の性格を考えるとこういった唐突な行動をすることは考えられるのだが、いかんせん何故真波が俺の腰に腕を回して強請るように声をあげるのか、俺にはよくわからなかった。
のろのろと体勢を直して俺の首へと腕を回し変える真波に「なに」と聞けば、少し拗ねた。頬にツンと指を指してくる。
「なあに」
子供をあやすような声色で問いかければ、真波は「気付けよー」と無茶なことを言う。たぶん泣きそうに笑ってんだろうなこいつとは思ったが、解決策は俺にはない。
そのうち痺れを切らしたのか俺の首筋に顔を埋め始めたので、それはマズいだろうと制止を促したのだが、真波は止めるどころかエスカレートしてしまった。わけがわからん。
「俺舐めてもうまくないよ」
「いーの」
いいのか。いや、よくない。
ちゅ、ちゅと音を立てながらキスを落とす真波はいったい何を思っているのか。それが妙に心地好いからいけない。
回された真波の腕を掴んで離し、向き直る。うれしそうな顔をされると申し訳なくなるなあ、と頭の端で考えた。
「ダメだよ、真波」
「なんで?すきだよ」
「かわいいこと言ってもダメ」
ぶすーっと頬を膨らませたこいつも可愛い。でも、ダメだ。こいつは病弱だから、俺のせいでよけいな負担をかけるわけにはいかない。
俺も好きだよ。その言葉を飲み込んで、真波の額に唇を落とした。それだけ。俺に出来ること。
「キスもダメ?」
「ダメ」
「ねえ、なんで?すきだよ?ダメなの?」
「…」
いいよと言ってしまいたいけど、俺は絶対にこいつには優しくできない。だからダメ。どうしても、ダメ。
「いつか、な」
「…きらい」
涙目になってポツリと言われた言葉に過剰に反応してしまう俺は、相当こいつが好きなんだろう。無理矢理後頭部を掴んで唇を押し付けてやった。驚きに見開かれた瞳を無視して舌をねじ込んだ瞬間、真波が呼吸をしようと口を大きく開けた。その隙を逃さずにもっと奥へと舌を入れれば、真波は瞳から涙を零す。知ったことか。俺を煽ったこいつが悪い。舌を絡め取り、しつこく舐った。
「これで懲りた?」
はあ、はあ、と息を荒く吐く真波にこぼれ落ちた唾液を拭いながら聞けば、うっとりとした顔で「もっと」と言われたので「やだよ」と返して帰った。これ以上我慢とか出来るかよ。
20140202
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