▼三成
だめだなって思った。なんとなく。
この人、いつか自分で自分を追い込んで死ぬんだろうなって。
すべてがしろいひとだった。
溢れんばかりの強固な意思を映した瞳に見詰められたら、あまりにきれいなものだから、思わず言葉を失った。とてもまっすぐで、濁りのない白。一生そのままでいてほしいと願う反面、私の色をつけたいと思った。
「裏切らないと誓え」
一度だけ、聞かれたことがある。私はそのまま誓うのは癪だったので、にたりと笑って「いや」と言った。そうすることで、彼の中に留まりたかったのかもしれない。彼は孤高にいるお人だから。私の如き凡人、すぐに記憶から消え去ってしまうに違いないから。
するとね、彼は私のことを今すぐ殺しそうな目で見てきたの。それでいいの、君が私を忘れないならなんだっていいよ。哀しくなったのは、何故。
刀が私の顔の横を通り、襖に突き刺さった。「殺したかったら殺せばいい。私は君を殺せないけれど」真っ直ぐな視線が交差した。私、死んでもいいわ。
「何、殺さないの?言葉だけを信じる愚かしさを漸く自覚した?」
「…貴様は口が減らないな」
「口から生まれてきたんだもの、仕方ないよ」
「この法螺吹きが。もし貴様が秀吉様のことを最後まで守ろうとしていたことを私が覚えていなかったら、本当に斬っていたぞ」
「あらやだ、人違いじゃない?」
「………貴様はよくわからんな」
「解ろうとしてくれるだけで構わないよ」
理解してしまったら最後、君は私に飽きてしまうかもしれないじゃない。ふふ、笑って石田の首を掴む。するりと私の手を受け入れた石田は何故か目を白黒とさせていた。
君の刀は真っ直ぐすぎていけない。それはそれは強いけれど、ある時ポキッと折れてしまうよ。
私はそれを黙って見過ごせない。
「多分君はこのまま首を絞められて殺されることを良しとしないよね。どうせなら戦って死にたいよね」
首から頬に手を移して目を合わせる。柄の悪い目付きに似合わないきれいな瞳。小さな私が映っている。ああ、私の気持ちが見透かされてしまいそう、なんて。
「でもね、私は許さないよ。君に死んでほしくないんだ」
「………」
「君が死んだら私は私のすべてを使って君の仇討ちをするよ」
「何故だ」
「君が大切だからね。ああ、私に何が出来るって?何なら甲斐の虎から攻め落としてあげようか?優しさにつけこむのは苦手じゃないの」
「…半兵衛様が貴様を敵に回したくない理由がよくわかった」
「安心してよ、私、石田の敵にはならないから」
だって、ねえ。
私、君が大好きなんだもの。
20111225
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