▼ホーキンス
「また食べたのか。これは食べ物ではないはずだが」
むしゃむしゃと両手に持ったそれを食べていたら後ろから声をかけられる。振り返るまでもない、彼の声だ。
私は食べ続けたまま話す。
「だってこれ船長の大事なものじゃないですか。意地でも食べますよ」
「うまいのか?」
こてん、と可愛らしく首を傾げる船長に思わず苦笑した。
「まずいですよ。船長の愛が入ってるので余計まずいです」
「そうか」
「そうです」
ようやく手に持っていた藁人形を口に運ぶ作業をやめると、私は船長を見上げた。相変わらず大きいなあ、眩しいなあ、綺麗だなあ。
ねえ船長。船長の愛しているもの全て私が食べてしまったらあなたは私を愛してくれますか?
この船に乗ったその日から私はずっとあなたを愛していたのです。きっと、気付いていないのでしょう?バカな人。私もバカだったね。
「まあ良い、新しい藁人形を作ろう」
「えー、せっかく食べたのに。新しいの作っちゃうんですか?」
「だってこれがなければお前たちを守れないじゃないか」
「え」
「?」
だって、そんな。確かに船長は藁人形に愛を注いでいたはずで。
「じゃあ全部私たちのため…?」
「当たり前だろう?現にお前は使い捨てではない」
そんなことを言われたら、もう、もう。泣くしかないじゃないですか。
「藁人形はお前の口には合うまい」
「はい…不味かったです、とても…」
「だから、もうやめろ」
「…はい」
ああもうだから不味いんだ。甘ったるくて食えたもんじゃない。船長の無機質な甘さなんて、食べるもんじゃないねうん。私だけが食べれば良い。みんなは食うなよ、全部私のだかんな。
20110226
→
back