11月
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11月9日。ムリヤリ取り付けられたような約束だけど、うっかり言ったのはわたしだし付き合うことにになった。

でもどうして今日なのかな?今日ってなにかあるんだろうか。
うーん、と考え込みながらお昼を買いに購買へむかう。

「あれ、水野ちゃーん」

うしろから呼びかけられてふりむくと泉先輩が手をふっていた。
泉先輩は夏目先輩のクラスメイトで夏目先輩の親友みたいな人だ。部活の話で2年のクラスに行ったり、先輩がわたしのクラスにくるとたいてい一緒にいる。

「購買行くの?」

「はい」

「おれも一緒にいい?」

「もちろんですよ」

泉先輩はとても人懐っこい人だ。いつもにこにこしていて、初めて会う人にも気さくに話しかけていく。夏目先輩の場合は人懐っこいというよりはゆる〜いオーラが出ている感じだけど。
そうだ、泉先輩なら今日なにかあるのを知っているかもしれない。

「泉先輩、聞きたいことがあるんですけど・・・」

「なぁに。なんでも聞いてよー」

「あの、今日ってなにかあるんですかね?夏目先輩に言われて引っかかってるんですけど」

「夏目に?そーだなぁ、それはたぶん・・・」


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放課後。HRが終わって校門まで行くと、すでに夏目先輩はそこにいた。

「す、すみません・・・。HRが長引いて・・・」

「ん、いいよ。行こう」

そう言うとふいっとむこうをむいて歩き出す。
なんだかそっけない。いつもの先輩なら笑って行ってくれるのに。これはもしかして・・・怒ってるのかな。

(どうしよう・・・。今日はずっとこんな・・・)

「あのっ」

とっさに声をかけてしまったけど、次の言葉を考えてなかった。呼ばれてふりむく先輩はやっぱりどこか浮かない顔をしていて。

「これ、あげますっ」

そんな顔は見ていたくない。わたしは勇気をふりしぼって後ろ手に隠していたものを先輩の前に差し出した。
先輩はきょとんとしてこちらを見ていた。

「これ・・・」

「あの、泉先輩から今日夏目先輩が誕生日だって聞いて・・・。わたし、知らなかったからなんにも用意してなくて、それで急いで誕生花調べて、本当は本物を渡したかったんですけど・・・。あ、でもわたし絵描けないから友だちに頼んで・・・」

先輩が受け取った画用紙には今日の誕生花と言われている山茶花(さざんか)、ルピナス、野菊などの花が描かれている。
絵の上手な友だちにムリを言って描いてもらった。本人は快く受けてくれたので助かった。あとでちゃんとお礼しなければ。

「先輩・・・」

「きれいな絵だね。その子にお礼言っておいてね」

「はい。あの・・・」

「ごめん、おれ態度悪かったよね。これ、ありがとう」

そう言った先輩はいつもの先輩に戻っていた。よかったと安心する。でもどうしてあんなにむすっとしてたのかな。

「今日のこと、わざわざ泉に聞かなくても直接聞いてくれたらよかったのに」

「え、でも・・・」

「いつの間にそんなに仲よくなったの」

「せんぱ・・・」

再び歩き出した先輩のあとをついて行くとそう言う。顔をななめ後ろから見たら寒さのせいなのかなんなのかわからなかったけど、耳が真っ赤で。

「・・・やきもちですか」

「う・・・。もういい!あんなやつの話はやめた!付き合ってくれるんでしょ、おれのお誕生日」

やきもちだって言ってくれたらうれしいのになぁ。なんとなくそう思った。先輩は顔を隠すようにマフラーで口元をおおってこちらを見ない。

「もちろんです!なにかほしいものがあればプレゼントしますよ。あ、高いのはダメですけど・・・」

「んじゃ、部室で使う新しいマグカップでも」

「先輩、誕生日おめでとうございます」

「ありがとう」

少しずつ寒くなる帰り道。心はあったかくなるように、何度もおめでとうとくり返した。



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夏目くんは泉くんと水野ちゃんが仲よさそうに購買に行くのを目撃してしまい、
むかむかしておりましたとさ(笑)

拍手、ありがとうございました!







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