秘密の鍵は2人分(森早)



「はやかわあ」
「はい!」
「タイムマシン、じゃなくてなんていうんだっけあれ」
「あえ?」
「あのー、手紙とか土んなかうめるやつ」
「タイムカプセウですか?」
「あーそれそれ!どう?」
「はい?」
「やんねえ?」
「え?」


あ、いまのかわいい。毎日毎日、好きが増えてく。まさか自分がこんな純情な乙女みたいなこと考えるなんて、思っても見なかった。でもほら、俺たちほっといたらもうすぐこの高校から出てかなくちゃいけないんだ。なんか思い出、欲しかったんだよね。


ぽつり、ぽつり、ココロのなかだけで呟く。早川は優しい。そして酷く純真だ。でもきっと、俺よりいろんなことをきちんとわかっている。だからほら、笑ってくれる。頷いてくれる。ああもうそういうとこ、めちゃくちゃ好き。タイムカプセル、だなんてただの思い付きに過ぎなくて。ほんとはさ、2人だけの秘密が欲しかっただけなんだよな。


海常の皆との思い出ならある。笠松や小堀と、墓場まで持っていこうと誓い合った秘密もある。言えないけど。べつにやましいことじゃないけど。出来れば隠しておきたいし。それにこれは俺1人の問題じゃないし。3年間苦楽を共にしたかけがえのない親友たちを奈落の底に突き落とすわけにはいかない。そんなことぐらい誰でもひとつやふたつあるだろう。自分にそっと言い訳をする。


だのにせっかくの恋人と、高校生の甘酸っぱい思い出がないというのはどうにも淋しい。ようはどうにも甘えたなのだ、俺っていうやつは。


「どんなのがいいですかねえ」
「は?」


せっかくだし、すごいのにしましょう!そういって無邪気に笑う早川なんてもう、好きだばか。ほんとばか。俺もおまえも。だがそれが良い、ばか上等。


「すごいのってどうするんだ?」


にやっと笑って聞いてやると、大きな瞳をぱちくりさせてからふるりと体をふるわせる。


「オケットみたいなやつとか!」
「それ埋まんねえ飛んでく」
「じゃあオボット」
「動いちゃうじゃん」
「くうま」
「走りだす」
「ウウトアマン」
「3分で消えちまうぞ」


じゃあ…と首をひねり出すのがたまらなく愛しい。てかロケット、ロボット、くるま、ウルトラマン。いまどき幼稚園児でもこんな素直な発想しないだろ。ほんとかわいい。ていうか俺、よく全部わかったな。すげえ。笠松に教えてやろう、早川のらぬき言葉を理解するのに必要なのは愛だって。冗談。


「早川」


鍵、鍵にしよう。おまえの心に俺の鍵、俺の心におまえの鍵でしっかりと錠をしめて。なんて、少し気障すぎるかな。それでもまあ構わない、こんな痛々しいこと言ってられるのもあと少しなんだから。そのままタイムカプセルにも鍵を掛けてしまおう。開けられなくていい、それで良い。2人だけの秘密の鍵で。それは2つで1つだから、1人じゃ決して開けられない。だからほら、俺たちずっと一緒にいなくっちゃ。


さすがに全部は口に出せないけどさ、俺だって引かれるのやだし。でも全部全部大切な本音だよ。いつか2人でさ、お互いの大事な鍵で、この箱を開ける日が来たらそんときはちゃんと言わせてな。そんでさ、最後まで聞いてくれよ。


「好きだよ」


いまいえる精一杯のそのさきまで、ちゃんと。



<a href="未完成の青さまに提出。遅刻&文字数ギリギリで申し訳ない。
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