※ちょっと注意





「松風の指が欲しい」

 かららんころんとグラスの氷が転げた音とストローから薄っぺらいコーヒーを吸う音のあいだに物騒な言葉を投げた。簡単な数式にすら詰まるシャーペンの芯がぱりんと飛んでまあるい空色はさらにまあるく、地球のように綺麗な驚愕にふちどられている。

「やっぱ眼球でもいいな」

 空になったグラスをテーブルに預けて迷う。愛情というあまったるい万能フィルターを被った松風はぜんぶかわいくて、けれど、そんなにはいらない。生クリームたっぷりのケーキはたまに1ピースかじるから美味しいのであって、ワンホールなんて食わされた日には見るのも嫌になるだろう?その原理だよ。

「でも霧野先輩、俺はぜんぶサッカーのものなんです。あげられませんよ」
「指くらい、いいじゃないか。スローインのとき少し不便なくらいだよ、たぶん」
「だめです」

 めっ と子どもをたしなめるように眉を寄せた松風はなんだそれかわいすぎる。仕方がないからいまは唇をいただこうと思って肩を押したけど抵抗はなかった。たぶん、数式と見つめ合うより俺とのセックスのが楽だと踏んだのだろう。意外なとこで役に立つんだなあ、数学って。

「あ」

 絡めた舌がほどけた時、松風のぬらついた唇から色気のない母音が漏れた。なんだよと平たい胸を探っていた手を止めてみつめればふにゃりと眉尻を下げる。

「俺が、サッカーに捨てられる時が来たらなんだってあげますよ」

 それまでまっててくれますか?せんぱい。って、引き寄せられて囁かれたってそりゃあ興奮してまたぐちゃぐちゃに唇を奪って黙らせたけどやっぱりそんなにはいらない。いらないよ、松風。ぜんぶ貰って、おまえを嫌いになるのはこわいよ。
 絶望すら拾い上げる指先か空の色を刷り込んだような眼球か拙く応える舌先の柔らかさとか、そんなものでいい。のこりは全部、自分のために使えばいいから。

「せんぱ…やっ…おれ、みてくださ」

 太ももに擦りつけられた股間の幼い熱さにもう考えることは止める。そもそもこのサッカーと相思相愛なバカが捨てられるなんて一生こない気もするし、いま考えたって仕様がない。


 ほんとはちょっと重いけどとりあえずお身体いただきます。











(要は一生待てってこと)

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