「天馬」

 キャプテンの声はやわらかくて穏やかで、騒がしいとたしなめられる自分の快活でつんざくようなそれとは違い、そこかしこに品性が滲んでいた。時折置いてけぼりにされるような距離を感じることもあるけれど、鼓膜をゆうるり優しく揺らすそれはいつだって心地がよくて、自分の名をなぞってくれる音は尚更で。

「天馬、どうかしたか?」
「え…その、キャプテンの声って、気持ち良いなあって」

 ふわふわした頭でなんの気なしに放った賛辞に、キャプテンはひとつ瞬いてからすごい顔をした。真っ赤な頬に苦い表情。とにかくひどく狼狽えている。

「キャプテン?俺なにか変なこと言いました?」
「なんっ、でもない…」
「ええっ?何でもないって顔じゃないですよ!」

 なにか失言を、と慌てたがなんでもないからとすこし必死に俺を抑え込むとすまないと切羽詰まった声だけ残して部室から出ていった。
 ああ、またやってしまった。心のままに放つ言葉が、またキャプテンを追い詰めてしまったのかもしれないとぐるぐるする頭の片隅で、倉間先輩と霧野先輩が爆発しろぉおおとハモったのを聞いた。






(恋をたどる唇)






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