※ゲームネタバレ
※おっぱい星人V2














 最近おとなしくしているご褒美に、ってお見舞いに持ってきたりんごを剥く手もとを太陽は手品を見る子どもみたいな顔でずっと眺めていた。やっぱり天馬はすごい、と大げさにはしゃぎながら待ち遠しそうにそわそわとこちらを見て急かすのが微笑ましくて思わず表情がゆるくなる。こんなことでこんなに喜んでくれると、俺も素直に嬉しいから。

「天馬天馬、あーんして?あーん」
「ええっ、自分で食べなよ」
「ご褒美だからいいだろー。ね?」
「…もう、しょうがないなあ」

 皮を剥き終わって芯を取り切り分けたのを見計らった甘えたで口を開けた太陽にひとくち差し出すと待ち遠しすぎたのか指まで舐められそうになって、慌てて引いたけど本当に子どもっぽいなあとほわほわしてしまった。

「…ちぇ…」
「ん?おいしくない?」
「ううん、天馬が剥いて食べさせてくれたから百倍おいしい!」

 なぜか不服そうにした太陽にあまり甘くなかったかな、と心配になったけど気のせいだったみたい。もういっこ、と口を開けてせがむ雛鳥みたいな姿にしょうがないなと世話を焼くと本当にお姉さんになったみたいな気になる。

「ねえ天馬」
「んー、なに?」
「子どもの名前はなにがいい?」

 そんな心地よい気分に浸りながら皮や芯を片付けていた俺に、よくわからないセリフが飛び込んできた。ぎぎぎとロボットよろしく三個目をむぐむぐと飲み込んだ太陽を見ると、なにがいい?と重ねられるだけでなんの解決にもならない。

「……はい?」
「ほら、太陽も天馬もひとつの単語だから組み合わせにくいなあってずっと悩んでて。天馬はなにか良い案ある?」
「え、ちょ…太陽さん?」
「うーん、いっそ二人以上つくる前提で一文字ずつ取っていく?陽菜とか天希とか」
「あ、そらのってかわい…じゃないっ…じゃない!」

 ぼやけにぼやけた将来的に、という前提で子どもの名前とか考えるのは嫌いじゃない俺は流されかけたけど引っかかるべきはそこじゃない。

「こ、子どもってどっから出てきたの?」
「え、女の子のま」
「わーわー!ちちちちがうそうじゃなくて!どっからその話題が来たの、ってこと!」

 おおよそむき出しの単語を放ちかけた太陽を遮って聞いてみると、だってさあ、ってとろけるように誇らしげな笑顔を見せた。あ、その顔かわい…じゃないない落ち着け俺の母性本能…っ!

「端っこの部屋にいたお姉さん、ちょっと前にお母さんになってさ、赤ちゃん見せてもらったんだけどもー…かわいくって!だから天馬が産んでくれるよね?」

 ああ、無事に産まれたんだよかったなあとかなるほど子どもって話題自体はそこからか、とか純粋な感想はあったけれど最後の「だから」って絶対ちがう。日本で13年生きていればわかるちがう。

「やっ、あの…そもそも付き合ったりとか、ないよね?俺たち」
「うん。でも僕、天馬しかお嫁さんにする気ないから」

 あれれ今さらっとすごいことを言われた気がする。そりゃあ、あれだけ刹那的な生き方でサッカーのために命すら削っていた太陽が、未来のことを見るようになってくれたのは素直に喜ぶべきところなんだろうけど、なにせぶっ飛びすぎだろう。今まで太陽のことを、少し欲望に忠実な…ライバルだけど弟みたいな男の子、としか見ていなかっただけにこれはちょっと、衝撃がおっきい。

「あっ、あのさ太陽…」
「それと天馬のおっぱい飲みたいし!」
「……………はい?」

 太陽の気持ちを無下にする気はないけれどあんまりに突然すぎるし今はサッカーが何より大切で、恋とかよくわからないから待って、というニュアンスを伝えようとした俺の喉は、さっきより遥かにすごくて衝撃的な言葉に凍りついた。

「大丈夫、ちゃんとおっぱい出るようにマッサージとか手伝うし…あっ、でももし男だったら初乳以外は粉ミルクで育てよ?嫉妬して産後の天馬に無理させるとダメだから」

 俺でも正解なのかすらわからないそのおっぱいに関する知識はなんでしょうか太陽さん。もしかしてチェストからちらっと題字がのぞくたまごなんちゃらからの予備知識、てやつだろうか。すううと引いていく心を感じながら先を見すぎるのも考えものだなあ、て思った。男の子の妄想フィルター越しって、なおさら。

「ってことで天馬、子作り兼ねておっぱい揉ませて?」
「………………うん、黙ろうか」

 とりあえず残っていたりんごを口の中に次々押し込んであげたけど、ぜんぶ飲み込まれるまでにどれだけ頭を抱えたってこの子を正しい道に戻す手段は浮かびそうになかった。











(君の未来を僕にちょうだい)





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