※雨宮くんが天馬ちゃんのおっぱい好きすぎる話
※南天っぽい表現あり











「てーん、まっ!」
「うぎゃ!」

 太陽には、困った習性がある。俺を見つけた瞬間飛びついて来るのは良い。毎回頭を打ちそうになるのは困るけど、それくらい懐いてくれてるってことだし、俺より子供っぽい太陽相手だとなんだか弟が出来たみたいな、一人っ子の俺からするとほんわかして嬉しい気持ちになる。問題は、頬を擦り寄せる場所だ。

「んー、やっぱり天馬のおっぱい好きー」
「わわっ、ちょっと太陽っ!だめだって!めっ!」

 しっかり腰に抱きついて、むにむにとおっぱいの内側に頬を寄せられる問題の習性。はじめこそサスケと戯れるような心地で許容していた行為ではあったが、こうも露骨に言葉にされては引かざるを得なくて、ぺしぺしと頭を叩くけれど太陽は怯みもしない。

「えー、外じゃないからいいでしょ?」
「そういう問題じゃないの!」

 どうも以前、外ではさすがにやめてと頼んだのをイコール病室ならいいと解釈したらしい太陽はあっけらかんと言ったけど、俺はこの習性が最近むずがゆくってたまらなかった。太陽が頬を寄せるたびジャージとインナーとブラが生む摩擦に胸はもとより腰とかお腹とか関係ないところまで虫がいるみたいにむずついてしまって、面白いよりこわいようなあまり踏み込んじゃダメっぽい感覚がじわじわ広がってしまうから。

「とにかく重いからどいて?ね?」

 ほんとは体重のかかるところをずらしてくれているのか苦しいほど重いわけではなかったけれど、とりあえず離れて欲しくて手近な理由を掴む。が、太陽は途端にむううとぶすくれてヤダ、て平坦な谷間に顎を乗っけて言った。

「たいよー…」
「…天馬って、僕のことなめてるよね」
「へ?そんなつもりないけど…なんで?」
「子供扱いだから」

 ああなるほど。いくら言動が子供っぽいからって、同い年の俺にそういう扱いをされるのがいやだったのか。でも毎回毎回、うれしそうにおっぱいに擦り寄られたらそりゃあ子供っぽくも映る。比べるもんじゃないけれど、南沢さんみたいな大人っぽい人から舌舐めずりと共に育ててやるよ、なんてやられていた身としては尚更。…今思うとずいぶんな嫌がらせだったと思うけど、雷門のサッカーを認めてくれてからは俺にも柔らかい笑顔で接してくれるし、優しく頭を撫でられたりするのが素直に嬉しいからもういっか、で片付けてしまったことだけど。

「てーんまっ」
「ん?ひゃっ!たっ、たたたた太陽っ!?」

 遠い過去みたいな思い出に浸っていた思考は、いたずらっ子みたいにによによした太陽の、俺の胸をむにむにと掴んだ手のひらによって遮られた。ほっぺたを擦り寄せられることは会う度のことだったけど、揉まれるのははじめてで、あんまりの衝撃にとっさに遮ることもできない。

「たいよ、っだめぇ…ふにふにしないでぇ」
「ダメだよ、天馬。確かに子供っぽいかもしれないけど、僕も男の子だから油断しちゃあ」

 なに考えてたか 知らないけど、ね?てぐいと身体を乗り出して耳許で囁かれると自然と太陽の、パジャマ越しにもわかるしっかりした胸板に俺の自慢できるものでもないおっぱいを押しつけるようになってしまい、しかもつたないけれど力強い手つきで脇から寄せるように揉みしだかれるたび先端を突きつけてからつぶされる感覚に、薄手のインナーのおかげでさほど着膨れてもいない俺に襲う刺激はひどく直接的で、腰が びりびり って。

「僕、天馬のおっぱい好きだけど、理想は手のひらからちょっとはみ出すくらいのふわふわしたやつなんだ」

 ジャージの布地ですべる指先がときどき敏感なあたりを掠める。肩を突っぱねようとしてもそれが原因でふにゃりと力が入らなくてじりじりとお腹の下あたりから迫る、わけのわからない感覚にそろそろ泣きそうになった。だってこんな、勝手すぎる。表面的には片付けてしまったとはいえ最近まで立派なトラウマだったそれを思い起こさせるような行為。もちろん太陽は知らないはずだから仕方ないといえば仕方ないし勝手なのは俺の方かもしれない、けど涙腺はそんなこと考慮してはくれなかった。

「自分で育てるのって、男のロマ…て、天馬っ?」

 太陽の 一切の動きが止まる。慌てて俺の上から退いて正座する太陽の姿が滲んで、あ、泣いちゃったんだと思い知る。

「ううっ…たいようのばかああ」
「ごめんっ!ほんとごめんね天馬っ!調子乗った…天馬のおっぱい好きすぎて…ごめん」

 こいつ反省してんのかな、て正直思ったけれど叱られた犬以上にしゅんと床にひれ伏して土下座する太陽に、ちょっと感情的だったかなあと思いぐすぐすと鳴る鼻をすすりながら上半身を起こした。ちらり、窺うみたいにこちらを見る目がおいてけぼりの子犬みたいにかなしい。

「…も、いい。今日の忘れるから」

 こんなことでせっかく築いた太陽との関係がギクシャクするのもイヤだったし、なにより俺が一番わすれたい。きっと赤くなってるだろうおっぱいに残る布越しの手つきも熱さも、きっと邪魔になるだけだから。

「…ほんと?」
「うん。だからほら、顔あげ…」
「今日の忘れるってことは明日揉んでも平気?」

 純真なスカイブルーがまたたいて首を傾げられたって、母性本能には惑わされない。俺は病院であることも忘れて、

「ばか太陽ううううっ!!」

 と叫び、浮かれたオレンジの額を再び床に叩きつけるようにぶん殴った。ぐえっと唸った太陽を放って飛び出した先の、叫び声に驚いた人たちをすり抜けながら、もうお見舞いなんかいってやんない、と決意した俺だったけど3日後には油断して訪れた優一さんのお見舞い帰りに捕まってしまうのはまた別の話、らしい。











(病院では、静粛に)




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