肺と肺のあいだ、ぐるりわだかまる痛みすらふつうじゃないのだとすれば、繋いだ手を離さない限り俺たちは許されないんだろうか。否定も拒絶も覚悟しきった関係だったはずなのに、ふとぜんぶぜんぶ誰かに潰されてしまう夢を見る。それはかわいい女の子だったり、俺と剣城の家族、あるいはまったく知らないひとの顔をして現実を突きつけながらあまりにひどく小指を断ってしまう。

「松風」

 いつもはぶっきらぼうな掌が、やわらかい手つきでうつむいた俺を撫でる。それ以外の対応がわからないみたいに、ずっと、優しく。こんな不器用さも好きなのになあ。大好きなのに。

「剣城、あのさ、好きに違いなんてあるのかな」

 もうひとつの掌をねだるように取り、確かめるように胸の前でぎうと握るまでの間につむじを往復する優しさはちょっとぎこちなくなってしまった。イヤだったかなあ、そう思いながら、やっぱり離せずにいる。

「ダチかこいびと…か、っての今さら言うなら蹴るぞ」
「ううん、違うんだ。ちがう」
「ならなんだよ」
「…もしも、だけど」

 俺が女の子だったら、剣城の好きは違った?
 見上げる位置の夕日がしずかにまたたく。消えて浮かんで、そうして消える。どうしようもない答えに真正面からぶち当たるよりも、失ってしまうのが怖くて逸らせなかった。

「…知るか」

 頭を撫でていた掌がするりと落ちて、襟足から抱き寄せられる。ふたりに挟まれた窮屈な右手をとっさに離そうとした時、小指から伝わる剣城の心臓の早さに気づいた。

「てめぇ以外、好きになったことなんかねぇんだ」

 他なんざ知るかよ、掠れた声で見るなとばかりに後頭部を抑えられるけれど元が色白だから、派手に改造された制服から覗く首筋まで赤いのが丸わかりで、脳みそまでふわふわした暖かさが回ってうまく働かない。けれど、答えは決まりきっていた。

「……俺も、剣城以外への好きは知らない」
「…だったら、いいだろ別に、それで」

 ああ、剣城はすごい。不安な夜も怯えた朝も、胸を占めていた痛みもぜんぶぜんぶ溶かしてしまった。なんで揺らいだんだろう。普通のありかも知らない俺が、いまここに居てくれる剣城よりもずっと遠い悪夢で。こんなにも大切な思いなのに。

「うん。うん…ありがとう、剣城」
「…ふん」

 たぶん、幸せすぎるからだ。毎日が夢みたいに暖かくてやわらかくて、時々どっちがどっちかわからなくなる。それはいつも欲しいものをくれる剣城のおかげで、なんだか俺の感情全部が剣城に還っていくようでおかしくて嬉しかった。おんなじくらいのものを、俺があげられているかはわからないけれど。

「ったく、くだらねぇことで悩んでんな、ばーか」
「……そのくだらないことで照れるなよ、ばぁか」

 そのわかりにくくて確かな笑みは俺があげたって信じていいかなあ。










(離したくないよ、今が未来になるって知ってしまったから)