あんまりにきらきらしい目で頼まれたからそうさせただけであって俺はこの、人形のように背後から抱きしめられるという状況に納得しているわけではない、断じて。 「倉間先輩ってむぎゅうってしやすいですね」 ああやめろそんな無遠慮に俺のコンプレックスに踏み込むなあと無いとはいえ胸を押しつけるなちょっとはやわらか…いやいやいや。 「…おまえ、ほんとうっぜぇ」 「へへっ、知ってまーす」 言い過ぎて堪えなくなったか。にこにこすりすりと俺の髪に頬を寄せて、こんな顔をどこかで見たと思ったら、サスケとかいう飼い犬に擦り寄るときとおんなじ表情だった。そうか犬か。…そうかよ。 「先輩、倉間先輩」 「ああ?なんだよ」 「その…今さら、ですけどいやなら怒ってもいいっていうか…」 「はあ?」 「いえ、なんだか今の状況って俺が襲ってるみたいったああ!」 脛を蹴飛ばす。軽くだ、軽く。たぶん痕にはならない、が、狙いは定められなかったためにいわゆる弁慶の泣き所にヒットしたのかひどいです、と涙目で唸ってしがみついてきた。 「お前が変なこと言うからだろ!」 「変…なこと、いいましたか?」 「…お前が俺を襲ってる、とか、なんとか…」 「へっ?」 あまり見られたくはない顔を、わざわざうるんだ目で覗き込んでいた視線を宙に投げて、次第に赤くなる頬に、いやな予感がした。これはあれだ、天然ボケによる被害の前兆。 「うあ、ちっ…ちがいますよ…っ!」 ぱっと両腕を外し、ぶんぶん首を振りながら離れていった途端にかかとでつまづいて尻餅をつく。不可抗力で見えたものに上がる熱を、天馬は流れ的なものだと勘違いしたらしく、触れては来なかったのが救いだった。 「そっちじゃなくて、ほら、なんか俺、サスケみたいにじゃれちゃったなあとか思って…えっ?あれ?」 「…っ、ま、まぎらわしい言い方するな!」 「ううう…すみません…」 いろいろまざってごちゃごちゃになった羞恥で怒鳴りつけたら素直に謝られ、ふっと我に返る。 待て、なんでそこで謝るんだ?まぎらわしかったのは確かだが、勝手に勘違いして勝手に脛を蹴り上げたのは俺だ。押されれば押し返さざるを得ないが、引かれれば見失う。速水いわく、こじらせたツンデレとかいう性分らしい俺は、非常にこまった。天馬が、とんでもない失態をしたとばかりにしゅんとしたから尚更。 「…ほら」 「え?」 「…手。…判れよ」 「あり…がとうございます?」 疑問形であったことに食って掛かろうとした喉を制す。我慢だ、我慢。俺は先輩で、さっきはやっぱり悪かったような気がして、それに、天馬が笑ったし。 「でも、倉間先輩もむっつりでしたよね」 結構必死で平然を装い引っ張り上げたあとの正論は、無邪気とはいえだいぶむかむかしたのでべしりと背中をたたいた。それでもきらきらとなんにも懲りない笑顔でねだるのは 「じゃあ先輩、次は前からぎゅっとさせてくださいっ」 「おっ、まえは…少しは危機感を持てえ!!」 ああこいつ絶対むっつりわかってなかったな、なんてめまいがして、けど結局断れないのは別に後頭部の熱さが恋しかったからとかじゃないからな、決して! (熱いのは心臓と頬と?) |