04.予定外の出来事
主催者の家は市街地から郊外へ、車で四十分くらいのところにあるらしい。演奏会もその家で行うらしいので、それなりの邸宅なのだろう。
演奏者は俺を含めた六人。メインはハープを含めた五重奏で、ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロ、コントラバスの編成だ。
今日そのうちの何人かとも、顔を合わせることになる。
ほかの参加者は数日前から顔を合わせて、リハーサルをしているようだが、俺はソロでのみの参加となっているので、そこには参加しない。
おそらくその条件でしか受けない、とでも言ったのだろう。そうでなければ全員年上らしい顔ぶれの中で、年少の俺が大きな顔はできない。
それもまあ、すべてフランツの手腕のなせるところだ。
すべて任せてついて来なさい、と言われた時に迷わずその手を取った。それだけフランツのことは信用している。
フランツは母親が連れてきた、俺の世話係のようなもの。
初めてコンクールに出た、十歳の頃から一緒だ。あれから十四年ほど経った。
いまもなんの不自由もなくピアノが弾けているのは、すべてフランツのおかげだと言ってもいい。
「テーブルマナーは覚えていますか? 最近はナイフとフォークを扱っていないでしょう」
「心配しなくても身に染みついているよ。フランツいつもうるさいじゃないか」
車の助手席に乗った途端に、グリーンアイを細められて、俺はその視線から逃れるように窓の外を見た。
その態度に呆れたようにため息をつかれたけれど、気にせず窓を開けて気づかないふりをする。
今日が終わったら、明日は一日休みにしてくれるとフランツが言っていた。ずっと宏武の寝顔と後ろ姿しか見ていなかったから、少しは話ができるといいな。
そんなことを想像しながら、ほんのわずかだけ俺は口元を緩めた。
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