正直に言ってしまうと、俺はあまり誠実な人間ではない。
勿論、この人格とか体の事もあるが美人に誘惑されればついていくし特定の誰かをつくるような事はしない。ふらふらふらふら。
誰かが俺の事を根無し草だと言ったがまさにその通りなのだ。
根無し草。その言葉を思い出してにやりと口角があがる。銜えていた煙草の灰が革靴に落ちて小さな音をたてた。
「なぁに見てんの」
「携帯のパンフレット」
「これにすんの?」
「うん。オレンジとかにしようかなぁって」
「…ねぇ色の趣味悪いんじゃなィ?」
「伸二よりはましだよ」
パラパラとページを捲る彼女の手元にあるのは携帯電話のパンフレット。白や黒といった定番の色の隣に赤やオレンジといった派手な暖色が並んでいる。
「派手な色だと無くしても見つけやすいでしょ」
普段は白と黒の服しか着ないような彼女はそう言って笑った。
金曜日深夜の繁華街は全てがぐしゃぐしゃだ。
ビールの缶やペットボトルは打ち捨てられているし、飲むペースを間違えた大学生が転がっていたりもする。
転がっていた誰のか分からないピンヒールを軽く蹴飛ばした時、古い携帯電話のパンフレット。アスファルトの上で踏みつけられて破れたそれが視界の端に一瞬だけ入った。
「携帯ねェ…」
無くしても直ぐ見つかるからと言って持っていた派手な色の携帯。俺が体中につけた噛み痕。彼女の部屋に置いてあった夏に咲かない季節を間違えた朝顔。
今度俺が携帯買いなおす時はお揃いの色にしようなんて彼女からいいだした約束はそういえばどうしたんだっけ。
俺の携帯は彼女とお揃いでもなんでもなく真っ黒なままだ。
なぁ、俺が根無し草なんかじゃなくてあんたに一途だったらあんたはどうしたんだい。
無くしても見つけやすい筈の携帯を持った彼女は相変わらず見つからない。意味ねぇじゃねぇかよ。なぁ、
未練がましくフった筈の女を追いかける男の話