☆ネタバレあり


ピロートークにしては、ひどく色気がない


「全一くん生きてる?」
「…生きていますよ」
全く脈略のない会話ではあったが彼はいつも通り理解してくれたようだ。
ほら、そう言って気だるげな彼は私の腕を掴み自分の胸元に当てる。私の掌伝わるのに彼の心臓のどくどくという規則的な音だ。
「本当だ」
「満足ですか?」
「うん。満足」
「ならはやくお休みなさい」
あしたも学校でしょう。と言い残し、男にしては細く真っ白な彼の手が子供をあやすように私の頭を撫でる。

セミダブルのベッドの中。裸でいるからか直に伝わるひんやりしたシーツの温度と彼の手の暖かさはゆっくりと私を眠りをさそう。
「お休み。全一くん」

私の癖は彼が生きているか確かめること。
彼、全一は生の香りがまったくしない男だった。




「ずっと好きでした」
誰が誰を?私を?君が?
とぼけようにも校舎裏という薄暗く無機質な場所には私と目の前の彼しか居ない。
他の女の子と間違えているわけではないようだ。
朝、登校時に下駄箱に突っ込まれていた手紙。
いったい誰の恨みをどこで買ってしまったのかと疑問に思いながらその放課後の呼び出しに応じると、そこにいたのは、そわそわと所在無さげにするクラスメイトだった。

「文化祭の時から」
彼の口から途切れ途切れに語られるストーリーに出演しているのはあまり記憶にはないが確かに私である。
「俺と付き合ってくれませんか。」
サッカー部の、短い黒髪と少しだけつり上がった黒い瞳が印象的なクラスで3番目にかっこいいような人。
いつも友達に囲まれ、たしかある程度人気があったはすだ。なんと私にはもったい。彼の人を見る目はおかしいのだろうか。

「貴女が好きなんです。」





「告白された」
「そうですか」
真っ白と髪に真っ赤な瞳が印象的な芸術品ばりに美しい男は興味なさげに相槌をうちコーヒーを口に運んだ。
この男は愛を語らない。
この男は好きだとは言わない。
たとえ行為中でもその後のピロートークでも。
愛を語らない。愛情を表すであろう彼からの贈り物などもない。
何もない。笑えるほど私は自由だ。
体を差し出したから愛せ。などと言う面倒な女ではないと自負している。
初めてを捧げたのだから永遠に添い遂げるのだ。と思うほど純情な女ではないと同時に。
私たちの関係は雲のごとく曖昧であり、お互い離れようとすれば肉体は勿論、精神でさえ多分簡単に離れられる。

「ねぇ告白された」
「聞きましたよ」
「私、行っちゃうよ」


「行けるんですか?」
返されたその言葉は自信に満ち溢れていた。
こちらを見据える赤い瞳は挑発的に細められる。それはありもしない夢物語を語る奇人を見遣る常人の目だ。
「…」
行けるものなら行ってみろとでもいうような態度になぜかなにも言えなくなり私は口を閉ざすしかなかった。おかしい。私は自由のはずだ。



「しんだんだ。」
風のうわさで死んだらしいとは聞いていたがまさか本当に死んだとは知らなかった。
連絡は取れなくなっていた。
だがまさか死んでいるとは。そんな気持ちでいっぱいだ。
人形めいた浮世離れした容姿をして生の香りをさせなかった彼があっさり死んだ。生の香りをさせず、危険な仕事をしながらもしぶとく生きていた彼はもうこの世にいない。

最後まで彼は私に愛なんて語らなかった。



「好きだ」

行為中もピロートークの中でも愛を語る男は嫌いではないが好きでもない。体感してみて始めてわかった。
体感してみないとわからないことは以外と多いんだなとそれに気づいた時ぼんやり思った。
「ねぇ…生きてる?」
盛り上がっていたのも終わり互いにうつらうつらしていた時にふと、なんとなく聞いてみた。
突然の脈略のない質問に男は困惑したように笑う。
まぁ、そうなるかと諦めつつ昔と同じように男の胸にそっと掌を当てると、どくどくと規則的な音が掌に伝わる。全く同じだ。それもそうだ彼もこの男も人間で、生きているのだから。


だけどどうしようもなく生の香りを感じさせなかった癖に心地よくリズムを刻んでいた彼の心臓の音が懐かしくてたまらなくなった。

「俺はしっかり生きてるよ」
「…本当だね」



行けるものなら行ってみろ。まさにその通りだ。あの自信と挑発は妥当であったのだ。
愛を語らなくとも彼は私を縛り付けたのだ。私は自由なんかではなかった。

「行けないよ。全一くん。」愛なんてないよ

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