赤木さんがふらふらしているのはいつものことであって別におかしくなんてない。
勿論、ふらふらといっても体調が悪い。とかではなく根無し草という意味でだ。

ふらっと突然姿を見せたと思ったら2、3か月は連絡が取れなくなるなんて良くあることで、そんな事に慣れっこな私はいつ赤木さんが来ても良いようにと二人分の料理を作るようになった。


40過ぎで何してるか分からないなんてそれ絶対騙されてるよ。
以前、赤木さんと一緒に居るところを見られ、友人に言われた言葉をふと思い出す。
確かに赤木さんが何をしてるかなんて知らないし、真っ白なスラックスから無造作に札束を出してくるところからして普通ではないんだろうなとは思っていた。
友人にまで散々苦言をこぼされても赤木さんの帰りを大人しく待ってるのは多分、私が赤木さんに好意をもってるからなのだろう。
「好き…なんだよなぁ」
そう、好きなのだ。


狭い台所にお醤油の香りが漂ってきてほっこりした気分になる。鍋の中で踊るじゃが芋に人参に椎茸に。
想像以上に上手くできた煮物に嬉しくなって笑顔が零れる。
「可愛い顔して何してんだい?」
「っ、赤木さん!!」
突然の登場に驚いてよろめきそうになったが後から抱き締めていてくれた赤木さんのお陰でそれは阻止された。
「相変わらずみてぇだなぁお嬢ちゃんよ」
「…おかえりなさい」
「あぁ、ただいま」
振り返り様に言うと微笑んで赤木さんはそう返してくれた。
新婚さんみたいだ、なんて思っていたら端正な赤木さんのお顔が近付いてきて赤木さんと唇と私のとが繋がった。
口内に侵入する舌、ぼやける視界。
突然のこと過ぎてついていかない思考回路それでもやけにハッキリとした頭の片隅で火が危ない とだけ思った。

「っー!!赤木さん火!!火事!!」
「そん時はそん時だろ、な?」
悪びれた様子もなくいたずらっ子のように口辺を上げて笑う赤木さんを見てこの人には適わないと思った。



「嘘…」
「俺が嘘なんていったことあったか?」
「嘘だ」
頭では理解していても体は理解してくれないらしい。
口からは無様な嗚咽と『嘘』という言葉しか出てこない。
「赤木さんっ」
ベットから抜け出した赤木さんが脱ぎ捨てたジャケットを羽織って出て行こうとする。
ベットの上で必死に名前を呼ぶ私。
赤木さんを追いかけられないのは赤木さんがそれを拒否しているように見えたからだ。 彼にこれ以上嫌われたくない、彼が拒否することはしたくないそんな思いが真っ先に浮かんだ。
「赤木さん!!」
いつもの見慣れた様子なのにこんなにも心乱されるのは吐き捨てられた台詞が違うからか。
「赤木…さんっ」
閉じられる扉をみて目の前が真っ暗になった。


「お前の事が邪魔になった。二度と此処へは来ないしお前には会わない」
赤木さんの吐き捨てた言葉が何回も何回も脳内に響いた。



全てがやっと薄れてきた頃に手紙が届いた。真っ白な封筒。中に入っていたのはたった一文と住所だけ。

「赤木さんの嘘つき…」
その住所の場所にたどり着いて、歿年を確認して、
私はあの日を含めた全てを理解し泣いた。



「愛してる」そう言い残して彼は夏の終わりに神様になった。



夏の神様



世界で一番優しい嘘つき 様 提出
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