彼女は食人を犯す


別に彼女がおかしいという事を今ココで論じる気はないし、そういうならば彼女に負けず試験管で生まれ妙な体をもつ私自身もおかしいだろう。

食人

彼女は特別ではない。狂っているわけではない。
彼女は唯、人より少し消化能力が優れているだけなのだ。
人肉に含まれる細菌を全て消化する。
食人によら引き起こされ、死を招くプリオン病でさえ彼女には意味をもたない。
真っ赤な唇が、象牙色の美しい犬歯が、筋を脂肪を骨を臓器を ゆっくりと咀嚼する。
まるで優雅な肉食獣の食事だと私は考える。
そんな彼女がひどく愛おしい

「全一くん痛くない?」
「…大丈夫ですよ」
ゆっくりと目をあけるとそこにあるのは心配そうに私の顔色を窺う彼女。
長い睫毛が影をおとす。
口に銜えているのは一本の指
爪が黒く塗りつぶされているのを見てやっとその指が自分のものであると、認知できた。
痛みには慣れているので、いつもの様に痛覚をごまかしてもチリチリと痺れるような感覚が襲ってくる。
酷く気だるくてしかたないので彼女を見ていたい気持ちを押さえ目を閉じる。
あぁなんだ。血がたりないのか。


「・・・ごめんね」
「何がですか」
目をあけるすっかり咀嚼しきったらしい彼女は口元をほんのりと赤く染めて泣きそうな顔をする。
「痛いでしょ」
あぁ泣きそうだ
そう思っていたら流れ出した涙
はらはらはらはら
真下にいた私にこぼれ落ちるそれらは全て降りかかる。
「だから大丈夫だと言っているじゃないですか」
上体を起こして彼女に口づける。
舌を入れると伝わるのは血と肉の味
間接的にも自分自身を味わう結果となって不快感が少し増した。
そのままべろりと彼女の目もとに舌を這わせる。
塩辛い彼女自身の味がつたわってきて少し満足した。
「愛してますよ」
「・・・愛してるよ。だから食べたいの」
「貴女にならいくらでも差し上げますよ」
あぁ本当に便利な体だ。
愛しい彼女の一部になれるだなんて。
うれしくなってまた目を閉じる
あぁ血がたりないのか。


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