ごぽって
無理やり何かを吐き出すような嫌な音がバスルームから聞こえてきたから、
ため息替わりにくわえていた煙草を焦げ跡が大量に残るテーブルに押し付ける。
バスルームにいたのは青白い顔の女。
色白とか言う域を越えちゃってる感じ。
「なぁにしてんだよ」
便器から顔を上げてこっちを見る女。
血まみれの手。胃液で濡れた血色の悪い唇。
せっかく美人なのに勿体無いなんて言葉は飲み込む。
「口あけろよ」
そこらへんにあったタオルを女の口の中に押し込む。
「んーんー」
「胃液で歯溶けるだろぉ」
そう言うといつもおとなしくなる女。パブロフの犬みてぇ。餌とか涎とかの。
歯とかについた胃液を割と適当に拭ってやって。
タオルを口から出してやると女はいつも言う。
「なんで伸二は優しいの」
ほら。本当にパブロフの犬。
「なんでって愛してるからでちゅよー」
「嘘つき」
「嘘じゃねーよ」
「嘘つき」
「なんで信じないんだよ」
普通の会話が成立してない。自分の世界に入り始めたらしい彼女はうなだれる。
あぁこうなるとなかなか戻ってこなくなる。
良く言って一途。悪く言っても多分一途。
この女を愛してるらしい俺にはコレしか言葉が浮かばない。
只のボキャブラリーの問題だろうけど。
「とりあえずテレビでもみよーぜ」
つまらない深夜ドラマを見てれば全て忘れるからさ。
頷いたように見えた彼女を立ち上がらせてソファーをめざした。


ぱちり。
目を覚ますとあるのは静寂。
胃液を吐き出す音はしない。
内科で看てもらえない病気の女はもう居ない。
「伸二は私と似ているね」
そう言って笑った。後味はたまらなく悪い。

多分、あの女はどこかで生きてる。
血を吐きながらどこかで多分俺じゃない誰かに付き添われて。
似合わないセンチメンタルな気分。
憂鬱になったからそのまままた目を閉じる


syrup16g/吐く血
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