大好きの反対の反対/風丸一郎太


1人で両手いっぱいにタオルを運んでいる時とか、皆さんがアップ中にボールを出しに行く時とか、風丸先輩は良く気がついて手伝ってくれる。
根っからのへそ曲がりな私はそれに「先輩、サボりですか?」なんて言ってしまうのだけれど、風丸先輩はそれにもめげずに許してくれる。
優しくて、頼りになって、責任感もある。そんな風丸先輩だからキャプテンにサッカー部の助っ人を頼まれたり、陸上部の宮坂くんに懐かれたりするのだ。かく言う私も口にはしないだけでなにかと頼りにしている。

「少し持つよ。」

そう言って結局は私の持つ荷物の大半を攫ってゆく風丸先輩。私の見上げる先でポニーテールが踊った。
人につっけんどんに当たってしまうのが私の短所だ。一応、自覚はしている。けれどどうにも直せないものだし、更に言うなら今更直すなんて恥ずかしい。よって直す気が起こらない。強制終了。
そんな私に尚も優しく接してくれる風丸先輩が実は私には良く分からない。
性格からとか、建て前上とか、確かに考え得る理由はある。けどそうは思いたくないというのが人間の心理で、つまり私はそこそこ風丸先輩が気に入っている訳だ。否、そこそこと言うのは誤りかもしれない。かなり、だ。

「もう練習に戻った方が良いですよ。」

「いや。ここまで来たんだから最後まで運ぶよ。」

目の前に部室が有るのだから、ここが最後ではないか。まぁここからも部室に入って、この良く干されたタオルを分別して仕舞うという作業はあるが、それは大した作業ではない。それどころか無駄に時間を食う作業だから選手を手伝わせるのは宜しくない。

「あんまり遅いとキャプテンに怒られますよ。」

言ってからキャプテンの人柄を考え、それは無いなと自己完結した。それよりもキャプテンが怒られる方が容易に目に浮かぶ。
しかし風丸先輩は私の忠告も軽々と受け流した。最後まで手伝ってくれる、それは有り難いがそう喜んでもいられない。マネージャーが選手の練習を邪魔するなんて言語道断だ。

「何でそんなに手伝ってくれるんですか?」

理由を言えなくなった風丸先輩を追い返す目的でそんな疑問を口にした。本心から気になっていた事だったとか、そんな事は微塵もない。
風丸先輩は部室のドアを開けつつそうだなぁと口にした。「小さいのに頑張っているから」という見方を変えれば貶しているようにも聞こえる理由を口にしながら、風丸先輩は私が入室する間もドアを支えてくれる。こういう何気ない気遣いが狡い。

「…あんまり簡単に優しくしないで下さい。」

表面上は仏頂面で通してはいるが、いつも内心葛藤しているのだ。自惚れてしまいそうで怖い。

「後輩だとか、小さいだとか、そういうことを気にして手伝ってくれるのは嬉しいですけど、」

なんて言えば良いか。兎に角困る。
そりゃあこの前まで小学生だったし、私はクラスの中でも割と体格の小さな方だ。危なっかしく映るかもしれないけれどこれでもしっかりしているつもりである。ドジは踏まない。
そう言うと風丸先輩は一瞬虚をついたような表情をして、それから沸々と込み上げるように笑い出した。私が戸惑い呆けている前でタオルを落とさないよう気をつけながら笑う。

「ごめんごめん、そうじゃないんだ。」

風丸先輩は俺は、と前置きをしてから口を動かした。

「気になるんだよ。お前が頑張ってると、妙に。支えたくなるんだ。」

清々しい笑顔で言ってのけた風丸先輩を前に、数秒遅れて私の頬が茹で上がる。ぽかんと不格好に口を開けたままの私を見て、また風丸先輩はけたけたと笑った。

「何を言って…っ!?」

「さぁ、さっさと終わらせて練習しなきゃな。」

年上の余裕という奴か。風丸先輩は先程の発言など無かったかのようにタオルを片付け始めた。
風丸先輩の背中が目前で揺れる。
私はその背を見つめ、思う。
私は風丸先輩が…、なんて差し出がましい事なのは重々承知だ。けれどその問題は別にしたって、素直な気持ちなんてとても私には言えそうにない。

「怒られる前に、ですね。」

礼の代わりに可愛げの無いひねくれた言葉を投げかけて私も分別を開始した。


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