ほら、君はずるい/綱海条介



世の中、鈍感な人ほどひどい人はいない。


『よー!調子はどうだ!?』
「わっ!」


タオルを運んでいたらいきなり頭をわし掴みされてそのままぐしゃぐゃと撫で回された。こんなことするのはあの人しか居ないと思いながら振り向けば、やっぱり。白い歯をみせて豪快に笑う綱海さんがいた。もう本当にこの人は心臓に悪いなあ。ぐしゃぐゃになった髪を整えたいけど、今は生憎両手がふさがってるために直せない。それに、綱海さんの手が乗っていたと考えると意識してしまって、顔がすごくあつくなる。心臓だってさっきからドクドクいって、ぎゅうぎゅうと締め付けられる。本当にこの人は心臓に悪い。


「いいんですか?こんなとこにいて」
『あー?何がだよ?』
「今個人練習中じゃないんですか」
『バレちまったか!』


またにかっと白い歯を見せて笑う綱海さんにどうもわたしは弱いらしくて、そんな笑顔をみせられると早く練習に戻れと言えなくなってしまう。これが惚れた弱みというやつか なんて変に納得してしまう。それに早く練習に戻れと言えないのは、わたしが綱海さんにまだここに居て欲しいからだ。綱海さんの隣は恥ずかしいけど、うれしさのほうが何倍も勝ってしまって、いつまでも隣にいたいと思ってしまうんだよなあ。それを春奈ちゃんに言ったら目をきらきらさせてそれは恋ですねうんたらかんたら言っていた。多分、わたしもそこまで鈍感なわけじゃないし、気付いてたんだ。そのことには。でもどうにもそれを認めたくなくて。だって綱海さんは年上だし。


『でもなんつーかお前見たら話したくなってよ!』


ほら、こんな風に鈍感だし。決して綱海さんはそういうつもりで言ったんじゃないだろうけど、わたしはその言葉にまた顔をあつくしてしまうのだ。だからいやだったんだ、綱海さんをすきなのを認めるのが。


『でもあれだよな!お前ってちょこちょこしてるから追いかけたくなるつーか!なんか構いたくなるっていうかさあ!』
「なんですかそれ。貶してるんですか?」
『ちげーよ!んー、あ!そうだよ!かわいいんだよなあ!だからいじめたくなんだよ!』
「のえ!!?」


綱海さんの発言に思わず持っていたみんなのタオルを落としそうになった。危ない危ない。グッジョブ、わたし。いや、そそそそ、それにしたってなんなんだ!さっきの綱海さんの発言は!びっくりして口をパクパクさせてるとまた綱海さんがまたわたしの頭を撫で回した。あああ、もう。全身から力が抜けそうになる。綱海さんの言動についていけなくてわたしの頭はショート寸前だ。体中の血がふつふつ煮えあがって、ものすごくあつくて。もう嫌になる。ぜったい、わたし真っ赤だ。


『いつだって俺の目に入ってくんだよなあ』
「そんなごみみたいな言い方…」
『いや、今気付いたんだけど、まじでお前がいっつも目に入ってくんだよ』


おっかしいなあと手を顎に置いて、綱海さんは考えだした。綱海さん、わたしだってね、いつだって綱海さんが目には入ってくるんですよ。試合中にどこに動き回ってようが、すぐ見つけられるんですよ。そんなことは言えるはずなくて、ごくんと飲み込んで、うまいこと綱海さんに伝わらないかなあと見えない電波を飛ばしていれば、ぱちっと綱海さんと視線がぶつかった。まさか、伝わっちゃった!?


『ん?なんだよ、そんな顔すんなって』
「そんな顔って どん、な顔で、すか!」
『こう、奪いたくなるような顔』


内心ドキマギしていれば、にやりとなんて嫌らしい顔。ふふんと鼻を鳴らす綱海さんの言う、奪いたくなる顔っていうのは、いったいなんなんだろうか。鈍感の考えることはわからんなあ。


『本当、お前っておもしれぇよなあ!』


むむむっと考えていれば綱海さんの大きな手で背中をばしばしと叩かれた。い、痛い。わたしが痛がっても、綱海さんは止めることなくからからと気持ちいいくらい笑っている。そろそろやめていただかないとわたしの背中が細胞分裂をし始めそうだ。


『顔はコロコロ変わるし、ときどき変な行動するし』
「ど、どういう意味ですか!」


変な行動ってなんだ、変な行動って!わたしが食いつけば綱海さんが言葉通り、お腹を抱えて笑い出した。そんなに笑わなくてもいいのに!少しショックだ。わたしってそんなに変なのかな?


『あー、腹いてぇ』
「…わたしはそんな変ですか」
『おいおいスネんなって!』


別にスネてませんよ。ただ、わたしは綱海さんにすかれようと普段から秋ちゃんを見習って女らしい動作を心がけてるのに、当の本人はまったく気づかないで変な行動と言って爆笑していただいてるから腑に落ちないだけですよう。そんなこと、やっぱり言えるわけなくて下を向けば、ぽんと何かあったかいものが頭に乗っかった。


『まあ、その、…あれだ!』


見上げれば、綱海さんの大きな手が頭に乗っていて、それに気づいた途端、どうしようもないくらいにお腹から熱が込み上げてくる。


『多分、俺はお前の、そういうとこがすきなんだよなあ』


ぱさりとやわかい音をたててタオルが地面に落ちた。世の中、鈍感な人ほどひどい人はいないなあ。
110318
ほら、君はずるい
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