ピアスホールにキス/基山ヒロト



僕の、可愛い、キミ。

僕の足の間に座らせて花のような――きっとちょっと背伸びしたシャンプーを使ったんだろうな――香りを発する可愛らしいうなじに顔を埋める。するとくすぐったそうに身を捩るキミが愛しくて、愛しくて。ギュッと抱きしめた。

僕は立派な社会人でキミはまだほんの高校生。年も価値観も全然違うし、もしかしたらキミはほんの軽い気持ちなのかもしれない。僕らが夢中でサッカーボールを追いかけていた瞬間にキミはひらがなを練習していたんだ、それもそうだろう。でも信じてほしい、キミは僕にとってのかけがえのない存在なんだ。ありのままのキミがいとおしい。



ヒロトの髪の毛が首筋に当たってくすぐったい。ギュッ、とお腹周りを抱きしめられて彼特有の私を安心させる香りが私の鼻孔を惑わせる。あぁ、私、やっぱりヒロトが大好き。たとえ彼にとって遊びでも。その私の大好きな彼の匂いの中にほんのりとタバコの臭いがまじってるのに気づいた。昔はサッカーをしていたと聞いたとおり、タバコだけは絶対に吸わなかったはずなのに何故?

「今日は取引先の人と食事に行ってね、商談を取り付けてきたんだ」

あぁ、取引相手が吸っていたタバコの臭いか。気にくわない。ここにいない存在のくせに、臭いで主張されているみたいで。これだから大人は。

「そこの店のソムリエさんがね、キミの話をしたら、ほら。あれをくれたんだ」

顔も見たことない、それに今後も知ることのないような相手に嫉妬している私に、ヒロトはゆったりと話しかける。ヒロトの視線の先には、なんと私の生まれた年に作られたワイン。

「キミはまだ飲めないからさ、大人になるまでとっとこう」

私が肩越しに振り返ると、ヒロトと目があった。ふんわりと笑うヒロトはやっぱりカッコイイ。でも、その分だけ不安になる。こんなお子様な私なんて釣り合ってないんじゃないのかな。

「私、飲めるよ」

「え?」

「遺伝的にたぶん飲めるからさ、飲んじゃおうよ」

だってさ、早く飲んでおかないといつか捨てられちゃうかもしれないから。そんな続きは心の奥にそっとしまって。

「なにいってんの」

びっくりした。ほんとに単純にびっくりした。その後に少し恐くなった。あのヒロトが怒るなんて。

「冗談でもそんなこと言わないで。キミに何かあったら耐えられない」

真面目な顔をしたヒロトが私とまっすぐに向き合う。



その表情に、なんだか私は泣きそうになった。

「だって、今飲んでおかないと、」

「僕がキミを捨てるとでもいうの?」

そこまで言うと、ヒロトに笑顔が戻った。あぁ、よかった。ヒロトは再び私を抱きしめて言った。ヒロトの視線の先には、私の左耳、最近あけたピアスホール。

「だからこんなピアスまであけて?」

「だって、私は、ヒロトが、」

段々と支離滅裂になってきている事を自覚しながらも私は話す。私とヒロトじゃ釣り合わないって。ヒロトとおんなじ場所にあけたそのピアスホールでさえ私の虚無感を拭ってはくれなかった。

「はは、バカだなぁ」

ヒロトは私の髪の毛をかき上げて、ピアスホールを露にした。

「いや、僕もかな?」

私の耳、正しくはピアスホールに彼の唇が触れた。ふわっとしたなんともいえない感覚に包まれる。そのあと、更に更にキツく抱きしめられて、私はとうとう浮遊する。ふわり、ふわり

「大好き」

もう、ね。あなたにそう言われるだけでどうでもよくなるんだから、私の世界は不思議だ。

「だから、あれは取っとこう?」

「うん」


私が20になるまで、待っててね。


110314 提出















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