夢喰いシェリー/風丸一郎太



シャリ。銀色に輝くスプーンをそれにさすと、軽快な音がした。少しだけ掬って口にいれると爽やかな甘さが広がって、鼻腔をくすぐる葡萄の香りにくらりとする。







「どうだ?」

「おいしい」

「そっか、よかった」

「風丸くんが食べさせたかったのって、これ?」

「ああ。確か、ぶどう好きだったよな」

「うん」

「ここの白ワインのシャーベット最高なんだ」

「ありがとう、私これ好き」

「絶対気に入ると思った」







にこり、と形容するには大人びていて上手い言葉が見つからない。微笑む、と表すのが一番正しいのかもしれない。
風丸くんは自分の飲んでいるアイスコーヒーのストローをくるくると回す。カランコロンと鳴る氷を見つめていたら「アイス、溶けるぞ」と声をかけられた。せっかくの風丸くんオススメの品だ。溶ける前に全て食べなくちゃもったいない。

お洒落なカフェのテラスでささやかな風の音を聴きながら、アイスを食べるだなんて大人だなあ、私。

こんな洒落たお店、友だちとは絶対に来れない。やっぱり3歳って、大きいよね。少しだけ落ち込む。私は大学生、彼は社会人。







「学校どうだ?」

「やっぱり1年の時とは比べらんないくらい忙しくなったよ」

「来年はもっと大変になるぞ」

「変なプレッシャーかけないでよ」

「はは、悪い。でも今年は目いっぱい遊んどけ」

「うん」







彼が大学4年生のとき、私は1年生として入学した。サークルは何に入ろうか、なんてできたばかりの友だちとはしゃいでいた時に、彼に出会った。






『陸上に興味ない?』

『陸上?』

『そ、マネージャー募集中なんだ』

『へえ…そうなんですか』

『1回だけ見学来てよ。入るか入らないかは見てから決めて』

『え?あの、ちょっと!』






風丸くんの第一印象は“軽い人”。実際、風丸くんのことを知っていくうちに第一印象なんて当てにならないと思い知るんだけど。
陸上のトラックを、誰よりも速く、綺麗に駆け抜ける彼に惚れた。あんなに綺麗な人がいるんだ、と感動した。

風丸くんの走りだけでなく、彼の全てが綺麗だった。






「私ね、時々夢を見るの」

「夢?」

「うん。風丸くんがすごく速く走ってて、私を置いていくの」

「俺、置いていったことあるか?」

「ないよ」

「だったら、信じてほしいな」

「信じてないわけじゃないの。ただ、このお店も私には大人すぎて…やっぱり風丸くんはこういう所よく来るのかなとかいろいろ考えちゃって」

「俺の昔からの友だちがな、よく使うんだって」

「友だち?」

「彼女の二十歳のお祝いに何かあげたいんだけど、いい店ないか?って訊いたらここを教えてくれた」

「へえ…」

「俺だって一緒だよ」

「?」

「ちゃんと、手を離さないでいてくれるかなってさ」

「手?」

「ああ。一緒に走るなら、手繋いでたほうがいいだろ?」







そうか、風丸くんは私を置いていくつもりなんてないんだ。私も一緒に走っていいんだ。







「風丸くん、ありがとう」







(ワインを飲んで一緒に眠ろう)
(僕が夢を喰べてあげる)














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