君だけ残して、僕は 最後にみたあの目を忘れたりはしない。 「なんで急に、別れるなんて言うの?」 悲しむ目ではなく怒っているような目でこちらを睨むのは、よく知る彼女の悪い癖。泣きたいほど悲しい心を隠すために怒って、強がる。本当は弱いのに。 「好きではなくなった。それだけだ」 本当は違う。まだ僕の気持ちは彼女に向いている。彼女の気持ちも、僕に向いている。わかっているけれど、これは必要な別れ。僕が望んでいること。 「話は終わった」 冷たく言い放って僕は背を向けた。彼女から視線を外す瞬間見えた泣きそうな表情。いつもの強がっている目じゃなく、涙を浮かべた目。感情を素直に映した目。 きっと僕が背を向けて歩きだしたら彼女は泣くんだろう。僕に見せないように気付かれないように顔を隠して声を殺して、そういう子だから。 初めて愛した人との別れは僕の目頭をもあつくした。自分から手に入れて手放して泣くなんてそんな勝手なことしない。泣かないよ、僕は。 強く決めて歩きだした。 振りかえらない。彼女がどんなに悲しんでいても、これは僕自身が決めたこと。でもね、ぼくが愛するのは一生で一人だけ。彼女だけだ。 一人立ち尽くす彼女だけ残して、僕は一歩を踏みしめた。 END |