*Remember

「やば!また来たっ!」

「うっき〜隠れろっ!悪党め!退治してやる☆」






ーーーーーー、





「.......っと...」







ーーーー、






「はぁ...アンタには興味ないの。そこを退いて、ゆうくんを差し出してくんない?」

「ふっふっふ...無理無理!無理に決まってんじゃん!それで『はいそうですかー』なぁーんて退く人は間抜けで馬鹿なクズだけよ!」






ーーーー、





「.....ょ...と...」





ーーーー、






「悪t...先輩....何のつもりですか....」

「...別に。ーーーーーーーーー、」






ーーーーー、






「ちょっと!」

「はいぃいいいいい!」




はっ...!

私は何を...一体ここは何処!?

....ここは地球。
見えるものからすれば、教室...夢ノ咲だ!




プロデューサーである彼女は、彼氏..という名の瀬名泉を3年教室に迎えに来ていた。

...が、彼女はそこで彼を待つ途中に寝てしまい、今に至るわけだ...

が。

彼女の様子は、どことなく落ち着かなく、おどおどとしていた。




私は誰....

...ふぁっ!?私は誰だ!
あ、月宮瑠奈だ!思い出したぞ!よーっし!





もともと活発で、喜怒哀楽のはっきりしていた彼女ではあったが、最近は少しずつ大人になっていた...はず。


ここまで混乱しているのは、何かあるのだろう。

お化けが夢にでも出たのだろうか。
あーもう面倒だなぁ...


そんなことを考えていた泉は、一瞬心配の表情を見せるが、彼女に気付かれる前にそれを消し去り、むすっとして見せる。




えっと...この銀髪の綺麗な人は...

...悪党?

...悪党だ!!





それでもなお続く感情の動きに、短い沈黙を破ったのは、銀髪の綺麗な人....瀬名泉の方だった。



「ちょっとぉ瑠奈?彼氏が隣にきてもなお寝こけてるなんて、どういう神経して......」

「悪党だぁあああ!うっき〜を守るぞぉおおおおおっ!」




だがその沈黙を破るなり、同時に瑠奈の感情も破れたのか、いきなり血相を変えて喚き、走り出しそして、教室から勢い任せて出て行った。




...






「....は?」

(...もしかして瑠奈..あの時に...?)



呆気にとられた泉が出した答えは、それだった。

これが、このお話のプロローグ...












〜〜〜











「...ってわけ。どうすればいいわけぇ?」

「アタシに言われてもねぇ...」

「私も同じです。そのold daysに瑠奈お姉様だけが戻ってしまったと言われても、私たちが何かして解決できるとは。」




...此奴らに言った俺が馬鹿だった。


その後瑠奈は、泉のことを見るたびに舌を出して挑発...はたまたアイドルである泉に殴りかかろうとしたり。

まあ、女の力というのはたかが知れているもので、すべて跳ね返せるものなのだが。


泉もいい加減やめてほしい、もとい戻って欲しかったのだ。


というわけで、ライブ終わりに聞いたわけだが。


帰ってきた答えは、そんなもの知らんがなといった様で、無情にも思えるものだった。

まあ『knight』らしいのかもしれないが、流石に何か方法でも考えてくれないと困る。



もちろん泉自身考えたのだが、あの時の瑠奈から今の(正しくは彼女であるときの)瑠奈になったのは、何か大きなきっかけがあったからという訳ではないのだ。


時間が2人の距離を詰め、時間が2人をくっつけた...と言っては愛というものが小さく見えるが、言葉にするとこの表現が一番だった。


もっとも。


『王様』だったら、もっと文学的に...は無理だが曲としては高度なもので、歌にでもしてしまうのだろうが。





今はそんな武器より、方法という呪文の方が欲しい。



ああもう...なんで瑠奈の為にこんな悩まなきゃならない訳...

苦し紛れの毒づきは何も意味を為さなかった。





「まるで何回救っても攫われるピー●姫みたいだねぇ...」

「あれ、起きてたのぉ?」

「うん...やっぱり夜は目が冴えるよねぇ。疲れたから寝ようと思ったけど。」




ああ、そういえばくまくんは夜行性だったっけ。まぁ、どーでも良いけど...

泉には、起きたと思えば苛立ちを助長させた、凛月に助けを求めようなどという思考は生まれなかった。

ただ、戻りたいという願望を胸に押し込み、1つため息を吐いただけ。



(..そういえば教室にフリのデータUSB置いてきちゃったんだっけ。)



...はぁ。
もう、面倒だなぁ...

最近色々ありすぎて、俺らしくないけど余裕が無かったのかも。まぁいっぱいいっぱいだった訳じゃないけどねぇ。


泉は、もう一度ため息をついて「それじゃあお疲れ。」とユニット衣装の上を脱ぐと、黒シャツのまま控え室を出て行った。






その傍ら、2-A教室では一人机に向かい、ノートにペンを走らせる一人の女子生徒がいた。



「...私のバカ。」



(素直になれないというのは、想像以上に罪なものだなぁ...)





その女子生徒は、記憶の一部を欠落させており、今までアイドルの彼女であるという『光栄』な立場にいた彼女から、プロデューサーに戻った。

まぁ正しく言えば、敏腕プロデューサーなのはそのままで『アイドルの彼女』という事実が消えただけだった。


こう言っても信じるかはわからないが、毒ばかり吐いている彼は、彼なりの信条があり、予想外に暖かいのだ。



その温もりに触れた時。

もう彼女は一瞬で墜ちていた。




自分でもお子様だとわかっている。

好きな子を苛めちゃうなんて、どっかの瀬名泉かガキンチョくらい。優しくしたりアタックしたりなんてことは不器用な彼女には不可能だった。





「あぁ...絶対にあくとう瀬名先輩は、こういう服似合うと思うのにぃ....」

(あ、違うか。なんでも似合っちゃうんだ。だからこんなに案が...)





...やば。もうこんな時間。

帰んなきゃかな...でももうちょっとでいい案が浮かびそうなんだけどなぁ。




ーー

「アンタこんな時間まで残って...バカじゃないの?体調崩したらどうすんのよ...」

「え?珍しい...心配してくれてるんですか?」

「...別に。アンタが倒れたら俺の仕事増えるでしょ?」

ーーーーー





「...っ」






聞けば私は記憶喪失らしく、瀬名先輩と恋人関係だったらしい。

個人主義的で、スキャンダルとかを絶対嫌ってそうな先輩が私と...と思うととても心が躍った...けど。

今の私は、記憶喪失前の私じゃない。




「..もう一度...好きに....」




なってくれたらいいのに。
その言葉は、虚空に消え、寝息と変わった。





ーーーー




「はぁ、疲れた。」





まったく...なんで今日はこんなにも疲れるかなぁ...

全部アイツのせいだ、と思ってしまう自分の捻くれさを呪いつつも、俺は自然ととある場所へ向かっていた。

まるで、何か過去にすがるかのような行為だったが、そんなことには気づくことはなく、まるで呼吸をするか如く自然だった。




「...あ、悪t...瀬名先輩。」



2-A

前までは、結構な割合でここに来ていた。
というか、それが日常だった。


...失ってから気づくっていうのは、前の夢ノ咲になった時と同じな気がする。

学習しないと言われても仕方がない...それが人間なのだから。


ガラッと音を少したてて教室に入った俺に、寝ていた瑠奈は気づいたようで、少し名残惜しそうにしつつも、眠気を振り払い起き上がった。


...髪乱れすぎ。服もシワができちゃってるし、くまができてる。
本当...なんでこんな奴...

何故好きなったのかは、俺自身もあまりわからないが、ただ..安心する。
でも、言えるのは...最初は、うざったいって思ってたってこと。

でも...はぁ、仕方ないなぁ。




「はぁ...ったくさぁ、アンタこんな時間まで残って...バカじゃないの?体調崩したらどうすんのよ。」




俺は、昔と今を比べる自分がバカらしくなって、手を差し伸べてやる。

そうだ、昔など関係ない...今は。

瑠奈は、俺にそう言われたことが意外だったようで一瞬目を見開いたが、すぐさま余裕ヅラを作り、髪の毛と服を正した。




「え?..へぇ珍しい...心配してくれてるんですか?」

「...別に。アンタが倒れたら俺の仕事増えるでしょ?」




...可愛くないよねぇ。
素直に「ありがとう」って感謝すればいいのに。

んでもって俺も。




「帰んなよ。それとも引きずってでも帰る?」

「...それはそれは、楽そうでいいですね。」




...そういえば。
最初...気づいてなかった。此奴は...瑠奈は自分だけで抱え込んで、他人に気取らせず笑ってる奴だって。

俺が此奴に惹かれた理由は、真っ直ぐで努力家なとこだったのかもしれない。

でも..此奴はなんで俺を?
こんな..憎まれ口しか叩けない俺を何故...




「あのさぁ、疲れてんなら疲れてるって言いなよ。ウザいなぁ...」



手掴んで引っ張る?それとも此処から投げ飛ばしてやろうか?

そう言おうと思ってしまったが、それは流石にやめておく。どうせ「ほっといてください。」だろうし。




「ん。」




結局、俺は手を差し伸べただけだった。




「えっ..せ、瀬名先輩....何のつもりですか....」




彼女は、照れやイラつきやらの感情に染まった様子はなく、ただ「意外」や「驚き」といった感情に支配されているようだった。

俺はその表情を目にした瞬間、『プロデューサー』じゃない只の『瑠奈』が何処からか頭に流れ込んでくる。




「...別に。こういう時に退く人は間抜けで馬鹿なクズって、どっかの誰かさんが言ってたから。」




こんな台詞を言ったのは、その所為だと...そう思いたい。




ーーーーー





「あ...えっと..あれ...」




『ちょっといい加減にしてよぉ?』
『アンタを突き落としてゆうくんを突き落とす。そして俺も落ちる。』
『べ、別に良いけど...』
『おめでと。コレは激励と、彼氏としてのプレゼント。』



一気に、情報が頭に浮かんでくる。
まるで何処かの『王様』みたい...あれ、瀬名先輩が記憶に....あれ..

泉..先輩....?




「い、泉..先輩....」



私は無意識に、差し伸べられた手をとっていた。




「....やっと思い出したんだ。」



あ、ああ...泉先輩。
そうだ、泉先輩...愛しい愛しい恋人さん。

ってちょっと..いやかなり甘すぎて気持ち悪い。一瞬吐き気した。
これで大団円...となりたいところだけど..私かなり泉先輩に迷惑かけたよね...?

数えようとしても、多すぎて嫌になるくらいに。
...嫌われないだろうか?

そんなことさえよぎってくる。

そんな心情の条件反射か、私は差し伸べられた手を離して、勢いよく腰を折った。




「はい...と、いうかご、ごめんなさい!そして、ありがとうございます!」




私は兎に角、常識の範疇である謝罪と感謝をする。嫌われたくない..そう思う自分がいるのは見え見えだが、それこそ記憶を取り戻した証だと思えた。

とはいえ...本当に危惧していることに違いはない。

嫌だ..独りよがりな感情ばかり先走る。




「へぇ、迷惑かけた自覚はあるんだねぇ。」

「も、勿論ですよ!本当にすいません!償いとして、私のできる範囲ならなんでもしますから!」




泉先輩はそんな私を、なにか含みのある目で見つめる。

そして、少し間を置いて、私にとって予想外の言葉をかけた。



「じゃあ、来月の第二日曜日。」

「....え?」

「そこ、空いてるから瑠奈も開けといて。」





Remember



(ああ、そういえば。)

(ん?何?)

(私が泉先輩を好きになった理由。思い出したんですよ。)

(はぁ、ってか。忘れてたの。)

(知りたいですかぁー?知りたいですよね!)

(...聞いてない此奴。)






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