*これが青春でしょ!
「あーもう暑い!」
体育館は冷房をさっきつけたばかりなので、まだ暑い。今日はバスケ部員は一緒に来た真緒先輩しかいないようで、翠は流星隊の練習だと言っていた。つまり、守沢先輩もいない。
スバル先輩は...キラキラしたものでも見つけたのか?
でも、唯一夢ノ咲学園の青春らしい青春といえば、部活なのだから、お姉ちゃんと違って私は部活には極力出ている。
「青春って良いですよねー...」
「...?いきなりどうしたんだ?」
そう、夢ノ咲学院にも部活はある。紅茶部とか空手部とか、軽音部とか。
その中にある1つに、このバスケ部があるわけだが。
バスケ部といえば、厳しい部活の代名詞みたいなところがある。競争が厳しく、キツイ繰り返し練習やら走り込みやら、色々と。
それが私にとっての青春だし、イメージだ。
まぁ、ここのは緩い『好きな人の集まり』って感じだが、それでもバスケをしているのは同じ...だよね?
某アニメとかでも、ゾーンとかミスディレ何とかやら、エンペラー何ちゃらみたいに、勉強だけでなく、部活にあそこまで打ち込む人だっている。
きっと、みんなも学生らしいことをしているんだ。
何もかも違う、アイドル学院でも。
「好きなものに、苦しくても打ち込んで、汗やら涙やら流したり、追いかけたり恋したり。」
「ん〜...俺はよくわかんないけど...それがお前にとっての『青春』なのか?」
「はい。」
そうか、もうここに来てから真緒先輩は1年以上経っているんだ。
すこし、忘れかけているのかもしれない。
「まぁ、お姉ちゃんはキーーーーッ真面目ですから?今の生活を逆に青春だと思っているんでしょうけど。」
「まぁ、そうかもな。」
全く。
この歳になってもお姉ちゃんは恋なんてしてないし、家でもチクチク服作ってるか、栄養とか応急処置の勉強したりだとかばっかり。
流石にここまで来ると心配する。
でもそれを他の2.3年の先輩や、同級生に言っても
「あんずだから。」
みたいな答えしか返ってこない。
何ていうか、みんなお姉ちゃんのこと好きだから、仕方ないのかもしれないけど、お姉ちゃんは頑張りすぎて、家でも見るに耐えないのだ。
つい最近なんて、中●線で松本まで行っちゃったし。お姉ちゃんは私みたいにドジ踏まないから、寝過ごすなんて滅多にない。
ってことは、相当疲れているんだろう。
「まったく...無理することなんて望まれてないのに。今日ガツンと言ってやろうかな〜...」
「ま、まあまあ落ち着けって。あんずはそういう奴だからさ。心配だって言われても、逆に心配させないように頑張っちまうかもしれないぜ?」
「...そりゃあそうですけど。」
あの人は青春を間違えてる。絶対。
松本まで行っちゃうほど疲れる青春なんて、存在しないはずだ。いや絶対。
確かに真緒先輩が言うのも一理ある...けど。
でも、私はとにかくお姉ちゃんの顔色を赤に近づけたいの!
「あーあお姉ちゃん。みんなから好かれてるから、選ぼうと思えば選べるのに。」
全く人生の3分の1は損してる。
あの蓮巳先輩や皇帝様でさえ堕ちてるのに、手にかけず『アイドル』として見るなんて...
天然焦らし系Sの素質があるな。うん。
「んー...まぁ好かれてるけど、それと『好き』っていう感情は違う気が...」
真緒先輩はそんな寝ぼけたことを言って苦笑しながら、フリースローラインからシュートを打つ。
サッと気持ちの良い、ネットにボールが当たる音が耳を掠めて、落下音がする。
「何を言ってるんですか...お姉ちゃんと一緒に帰る時に、絶対視線をみんな向けてます!私に対して嫉妬の目線、お姉ちゃんに対して熱っぽい視線を!私にはわかります!」
私はボールをキャッチすると、そこで一回転してゴールに放つ。
「...あーそっか!真緒先輩もお姉ちゃんのこと好きなんですね〜☆」
サッ
ネットの気持ちの良い音。
「だから否定したくなっちゃうんでしょ〜☆わかりますよその気持ち〜☆」
ゴール下シュートが決まり、私はキャッチして振り向き、スリーポイントラインまで下がった。
そのとき見えた真緒先輩は、意外にも顔を赤くするでもなく、腕を組んで難解そうな顔をしている。
あれ、これは違うのかな。
そして私が「あれ?違ったんですか?」と言うと、大きく「はぁ...」とため息をついて、棒立ちの私からボールを弾いて奪い、
「んなわけねーだろ。」
スリーポイントシュートを打った。
「確かにあんずは好きだけどさ。」
サッ
「俺はあんずみたいに、静かで真面目な奴より、瑠奈みたいなうるさくて馬鹿な奴の方が、そういう意味では『好き』だけどな〜。」
落下音。
「わ...わ、私は馬鹿じゃないですよっ!」
私はボールをキャッチし、何となく走りたくなった。ドリブルをして反対のゴールに走り、レイアップをする。
ガコッ
「あ、あれ」
落下音。
な、なんでミスった!?
ああこんなのおかしいよ!
なんで何時もこういうのをちゃんと決める私がミスったの!?
「まぁまぁ、落ち着けって?。な?」
「十分落ち着いてます!!」
全く誰のせいだと思ってるんですか!
小さく毒づいていたのは、きっと聞こえてない。
手でパタパタと仰いでいると、「ってか、お前顔赤くないか?」とか「大丈夫か〜?」とか、真緒先輩が言ってきたので、私は
「バスケのせいです!」
と大きく叫んでフリースローラインからシュートを打った。
「あーもう熱い!」
これが青春でしょ!(...っていうか冷房効きすぎじゃねーか?)
(いえいえむしろ涼しくて気持ちがいいですから!)
(寒くないのかよ?)
(はいもう本当熱いんで!)
(...瑠奈の言う『あつい』が違う意味な気がしてならな)
(はいはい先輩パスですよー!)
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