*俺だけはわかってるから



「おーっ!まるでillusion!マジですんばらしい!」




夕焼けの光を帯びる風。
それに吹かれる、茶色の綺麗な髪。

屋上で手を広げ、祭り準備中の会場を見て、瑠奈は一人満足そうに笑っていた。

独り言にしては大きすぎるが、それほど彼女は一生懸命だったんだろう。
目の下の影が、その証だ。


それでもニコニコと笑顔を絶やさず、会場を見つめる彼女は、純粋にこういうことが好きだから、馬鹿正直に色々できるんだろう。

他のユニットのみんなも、もちろん大事だけど、tricksterのみんなは別!
プロデュースに私情を挟むなんて嫌だけど、やっぱりあの4人は、スイーツ並みに別腹なんだ。

何か、肩入れしちゃうんだよねー...





「さーって!trickster様のすっぺしゃるな衣装を仕上げちゃーおっ☆」





だから、この衣装計画もすごい頑張った。

寝るという生活の一部を削ってでも、あのキラキラした原石をダイヤみたいに輝かせたかったから。

んで、屋上に来てリフレッシュ!ってね!






(まぁでも実を言うと、後は真緒君のだけだから、屋上で風にでも当たりながらやろっかなーって思ってたんだよね☆

それに、衣装のことはまだみんなに言ってないし、絶対驚くよね!たっのしみ〜☆)






スバル君は、キラキラブーツとチェーンに、オレンジがかった黄色?つか黄金のラインとボタンで飾った少しだけ薄い黒の上☆...と黒の崩したシャツ...つか全体的に伯爵が着てそうなやつ!

んで、北斗君が青と黒のきっちりした感じの上。シャツも崩さずにポケットにはハンカチーフ!靴も高級感のある黒い革靴的な靴☆THE・紳士って感じかな?


真君は深緑と黒の少し丈の長い上の服と、少し崩したシャツ☆イメージ的にはお忍び王子って感じかなぁ...?


そしてそして!真緒君は考えた結果、イメージは魔法使い!上は大き目のコートみたいな感じで赤のライン....、丈はダンスに支障が出ないギリギリまで長くして、コートの上から黒いベルトを締める!んでそのベルトに紅く煌めくリングチェーンをつける☆
黒シャツちゃんは第1だけ外す!




んで4人の衣装には、それぞれの色を暗くしたダークマントと、それぞれの色の腕輪!

今回の祭りのイメージは、中世ヨーロッパ?みたいな感じだったから、キラキラと大人っぽさを同時に奏でるハーモニーは難しかったな〜☆

まぁ、すっごく楽しかったけど☆





んで、あとは真緒君の上のボタンだけなんだ〜!

いや、このくらい終わらせとけば良かったんだけど、寝ちゃってさ☆
いやーそろそろ寝ないとなーw


まぁそーゆーわけだから、作業開始しちゃうか!









ーーーー






一方その頃...






「あ、北斗!」


「ん?ああ、衣更か。どうしたんだ?」

「アイツ見なかったか?あの馬鹿」

...?

「...アイツ?ああ。」




まずは、何故そんなに走っているのかが疑問だった北斗ではあったが、荒々しく教室に入ってくるなり、聞いてくるあたり、きっと何かがあったんだろう。
そもそも生徒会の彼が走っている時点で、何かあるとしか思えないし、もしかしたら急用なのかもしれない。


そう判断し聞かないことにはしたが、アイツの指すところは、多分瑠奈だろう。そう考察した北斗には、やはり急用が何かは気になった。



まぁでも、衣更には世話になっているから、そこは追求しないでおこうとやっぱ思い直し、質問に単純に答えることにした。




「瑠奈なら屋上じゃないか?」




まぁ多分というか絶対屋上だろう。
さっき、「ステージ見てくる!」と言って階段を駆け上がっていったし。

間違ってはいないはずだ。と自己完結し、論題的なものを終える。

そして特に何も他には言わず、質問のみ答えた北斗は、その後「ありがとう」と言って駆け去る真緒の背中を、静かに見た北斗は少し笑った。

何だか可笑しい。
面倒なことを嫌っているのに、そこに突っ込んでしまう衣更が。

ああ、でもこんな風に笑えるのは、その馬鹿のおかげなのか。密かに葵兄弟のアレを思い出す。
あそこからいろいろあって、今の俺たちがいる。おばあちゃんにしか認めてもらえないなんて、勝手に思ってたあの頃とは違う。

明星も遊木も、衣更も。
きっとそうなんだろうな。



俺はそういうのに疎いから、詳しくは知らない...だけど。

衣更、お前が楽しいっていうなら、きっと俺らも楽しいから。幸せになればいい。


なんて、また固いって言われるだろうけど。
でもきっと、俺は柔らかく笑っているだろう。





ーーーー




バンッ!






「おい瑠奈!」

!?

「え!?って、げっ....真緒君じゃないですか〜...ははは、」




わっ!?

ビ、ビックリノキワミって奴だよ...いきなり屋上のドアが乱暴に開いたと思えば、今一番来てほしくなかった方の声がするんだもん。

つか何の用だ!?

なんかうち問題起こしたっけ....?







「ど、どうしたの〜?そんな顔して〜...」







いや...っていうか何も身に覚えがないからね。逆に怖いんだけど...

真緒君は、すごい詰め寄ってくるし....私そんなヤバイことした!?
ごめんなさいとしか言いようがないんだが...

辛うじて残った平常心の小さな鉱石で、私は衣装を後ろに隠して、少しあとずさる。

するといきなり距離を詰め、何故か手私をおでこに当てる。



...へ?







「はぁ...」









え、え?

.....え?



え、いや。え?

なんで溜息?つかそんなに呆れる前に離れて!

あなたは男で私は女なの。ドキドキしないほうが可笑しいの!アンタはアイドルでしょーが!
自覚しろこの世話焼きやろー!

あーもう、わけわかめ!






「あ、あのー何かあった?」

「....ちょっとついてこい」

「え」







いや質問に答えてください!

何故に何かあった?でついてこいになんのさ!


つか服持ってるし、しかも丈長いし...片手で持ってたら落としそう...

いや諦めるな瑠奈!落とさないように全身全霊かけるんだぁああああ!






全身全霊タイム3分後。

全身全霊で衣装を守ってたので、なんかますます状況が飲み込めない。
ここは何処だ!?
私は...月宮瑠奈だな。うん。

ん?なんか落ち着く匂い...
これは保健室と見た!

ん?
でも佐賀美先生がいない....留守かね?
この時間は大体いるのに。

....あ。





いや私鈍感じゃないから。状況把握能力はあると思うから言うよ?言うけど、真緒君が心配してくれたんだね!

さすが世話焼きで優しいと評判の真緒君!


おーなるほど名推理☆←



...って言ってもただの寝不足だからなー心配してくれるのはめちゃくちゃ嬉しいんだけど。
どんぐらい嬉しいかっていえば、宝くじ一等賞くらい嬉しい!


が、しかし。
寝不足っていう。







「あ、あのー...大変言いにくいんだけど、私はただの寝不k..」

「いいから熱はかれ頼むから。」







!?






(ま、真緒君...)


え、いや本当に寝不足だけだって!

つかどうしちゃったの?
大丈夫?
尖ったもの無理なのに人には検温計向けんの!?...ってそこじゃなくて!

いつもは何ていうか...もうちょい落ち着いてるっていうか優しさがあるっていうか...いや今も優しさに溢れてるけど!

ま、まあ心配ないってこと証明できるなら、体温くらいはかってあげるけど..
本当に寝不足だし。それだけだし。





ピピッピピッ...







そしてーーーーーーーーーーーー、

はい、御察しの通りです。



(37.9!?...風邪ってことか!?)

はーい、熱でした。純然たる熱でした。
あーやばいなー...そろそろ祭りも近いのに。


あ。
ってか。
風邪だよね?うん風邪だ。



...つまり今わたくしが為すべきことは。







「ぎゃぁあああああああ!!」

「わ!?ど、どうしたんだよ!?」

「く、くるなぁあああああ!」



シャッ!

ベットのカーテンを閉めるという謎の行為




私は猛ダッシュで、保健室のベットへ向かい、シャーって奴をシャーした。

風邪ってことは、ここの衣更真緒様にうつしてはならない!
絶対これは最重要ニンムだ!

そろそろ祭りなのに!この後ろに隠した衣装をーーーーーーーーーーー...って






「ぎゃああああああぁああっ!?」

「こ、今度はなんだよ!?」







(な、ない!?いや保健室までの道で落としたの...!?)




い、いやそんなわけないよね。

全身全霊かけて後ろに隠して真緒君に引っ張られてたもん!
わー...もうやだ計画失敗か....じゃなくて!

最悪衣装は死守しなきゃじゃんか!




「あー...真緒君とりあえずうつしちゃ悪いから、出て...?お願いだから....」

「わかったよ..ちゃんと治せよ?」

「お、おk...」






(...よし!)



出てったよね!
気配も無いし、ドアのスーって音も聞こえたし!

えーっと...マスクマスク..っと。
あーあったあった。
そういや、久しぶりにマスクなんてつけるかも...ここ入ってから風邪なんてあんま引いてなかったしね。

....ちょっと大きいかな?


まあいっか。
とりあえずうつしちゃダメだもんねー

んで、真緒君に見つかると厄介だし、日々樹先輩のとこにいって変装でもさしてもらおっかなー...
...でもそれ余計に目立つねうん。

んー...まぁなるようになるかな?
トイレに行こうと思ってたーとか言えば、見つかっても大丈夫っしょ!


んじゃあ保健室から屋上まで探してみ..





グラッ...




(!?...気のせいかな?)


なんか今グラってしなかったかな...

...うん!気のせいか!
さーって、さっさと探して明日にでも驚かそ!


あ、でも床に落としちゃったりしたら、普通に考えて落し物としてどっかに...

そ、そういえば刺繍で内ポケットにとこに、名前刺繍しちゃってる....
や、やばい...

真緒君のとこに届いちゃってるかも!?




グラッ...




計画が...台無しになっちゃう...
夜なべして考えた..スペシャルな..け..いか.....く...が...

い、いそがな...きゃ..




(う...っわ...頭が..ふら..つ....く.....っ)





う...やばい....

一回戻んなきゃ...寝よう....
悪化させちゃあ...みんなに..め..いわく....が...




や..



























ばい..












_________







「...んーっ..ねむ...」




う..頭いた...

あ、そういやここどこだ...?
..保健室?


確か..倒れたんだ。私...衣装を......あ!

衣装!
やばい!探さなきゃ!
とにかく...あれだけは絶対....







キィーーーーーーーン....





いたっ...

(うっ...今は大人しくしとこ....)




ま、まあとにかく家に帰ろう...

って。あり?
なんか赤紫の髪がいるんだが....まさか真緒君!?
な、何故に真緒君が....




「ま、真緒くーん...?」

zzz...って感じで寝てますね。うん。





...じゃ無い!
今私マスクしてる!?って外れてる!?
なんで!?

と、とにかくマスクを...







(!?)
...ま、まおくん!?





「行くなよ...何処にも。」

「へっ!?」





真緒君の声が頭の中に響く。
頭が痛いからか...それとも。

真緒君は、マスクを取りに行くつもりだった私の手首を掴んで、そんなイケメン発言をしたまま、ベットに突っ伏していた。


私はそれに驚くだけで、何も言えなかった。








「とにかく、ベットに戻れ。頼むから...」







...そんなこと言われたら戻るしか無い。



今は朝か。
佐賀美先生...起こしてくれればいいのに。

ってことは真緒君はこの体制でずっと寝てたの!?ただでさえ苦労性で、睡眠があんま取れないのに...

私のせいで....




そんな落ち度もあったし、これ以上計画とか言って真緒君を困らせるわけにもいかない。そう考えた無意識の領域は、足を勝手に動かしてベットへ体を運んでいたんだ。



何処か切実に頼むような、色っぽい...といっても本人は自覚無いんだろうけど。そんな声が頭痛に痛む脳に絶賛リピート中で、私は別の熱が出そうだった。

真緒君は目が覚めてから、もう寝ないのか洗面台をチラチラと見ている。
私が寝てから、顔を洗うつもりなのか...



....






「..あの、真緒君...私はもう何処にもいかないから、寝なよ。」

「いやダメだ、寝たらお前またどっか行くだろ...」






いかないよ、とは言えなかった。

実際一回破ってたし。


そういえば、倒れたなんていうのは予想の範疇に過ぎないし、もしかしたら保健室に来てたのかも...

でも、それなら真緒君が保健室にいる理由が説明できない...





「...手貸して。」

「....?」





でも、きっとこの人のことだ。

何か世話を焼いてくれたんだろう、きっと。






「こうしてれば離れられないでしょ?...なーんてね......」

「はぁ...もう何処かに行くなよ?」







ありがとう。

小さく呟いたのは心の中か外か。



手は離せる気がしない。
何か引き寄せられているようで、手が熱い。



でも今はこれでいいかな、そんな甘いことを考えて、そんなものによがって。
祭りが終わったら、なんか奢るか。そんなことを考えていた私は、普通だと信じたい。

















__次の日_______





「よう!瑠奈!」

「大丈夫?無理しないでね?」

「ああ、無理は良くない。おばあちゃんも言っていた。」

「そーそ!で...この衣装すごいね!キラキラしてて綺麗☆」




わぁっ!?
なんでみんなが居るんだ!?


っていうか...
この四人は何処から衣装を手に入れたんだろうか。

でも。
す、すごい綺麗。


さっすが私☆...っていうかこの四人だからこそ似合うものだけれど。

綺麗というよりか、素敵?カッコいい?



でも真緒君のは途中までだったはずなのに、なんで進んでるんだろ。
それにさっきも思ったけど、私の家のクローゼットに綺麗に畳んで仕舞っておいたのに、なんで見つけれたんだろ。

...まさか。




「すごい似合ってるよみんな!...うん、本当に。」





私は、家に不法侵入した甲斐があったね。なんて言おうと思った。
でも、そんなこと言わなくても、似合ってることには変わりないし、かっこいいことにも変わりない。

きっと、ボタンは鬼龍先発がやってくれたんだろうな。もしくは紫乃君か...

まぁもしかしたら、母さんが届けてくれたのかもしれないし。っていうか普通に考えて母さんが家に入れたんだろうな。


だから...いっか!





「ありがとな瑠奈...マジで。」

「いえいえ!その代わり復活した瑠奈サマが、ビシバシしごくけどね☆」

「え〜っ!?...僕大丈夫かなぁ。」

「まぁ、瑠奈の事だ。死ぬまではやらんだろう。」






































(本当に、熱にも負けず衣装作りなんて...不謹慎だけど...)

(真緒君どうしたの?)

(...あー、なんでもねーよ。本当にさ。)



お前の苦労は、わかってるから。
俺だけは、ちゃんと...

だからさ...だからって言うのも可笑しいけど。
無理はすんなよ?

頼むから..さ。









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