土方 | ナノ







一仕事終えて久々に自宅に帰って風呂に身体を沈めようとしたら石鹸が虫の息だったので新しい石鹸の封を開けた、のはいいが、開けた瞬間ぼちゃんと派手な音を立てて湯船の中に俺の身体より先に沈んで仕舞った。疲れていると碌なことがない。特段今日の検挙は事前に綿密な計画を経ての大捕物であったからつまり、戦闘意欲が失われるということで此処数日下半身の相手をしていなかった。誰かに声でも掛けておけばよかった、思うも後の祭り、仕方なしに石鹸の落ちた風呂に身体を漬ける。石鹸はどんどん溶けて泡立って、だからやおら安いホテルの一室が雰囲気を醸して少し自嘲する。何人かの顔とその手の動きを思い出した。乱暴だったり逆に優しすぎたり、妙な性癖を持っていたり妙な道具を持っていたり――そして一様に言うのだ、淫乱、と。それがどうした、と思う。そっちだってそれを解っていて尚俺を捕えるのではないか。そしてまた一様に――俺を我が物にしたいと、言葉にせず訴えるのではないか。矛盾だらけの奴は嫌いだ、そう何度も言う俺の真意を恐らく全員が解っていない。だけれどその行為が今恋しいのは、御無沙汰である上血の匂いに頭をやられて仕舞っているからだろう。既に緩慢と、泡だらけの水面下でわかりやすい情欲が上向き始めている。誰かの顔を思い起こそうとした。そうすれば上向き始めた、しかし完全な勃起は拒んでいるそれ、の箍を外してやれるのではないかと思った。天井を見上げて湯気で曇る視界を閉じて、瞼の裏から頭の中へその顔を、俺を欲してやまない顔達のうちのひとつを探そうとした。しかし一向に、知り尽くしているはずの彼らの顔は、浮かんで来ない。ああ俺は誰にも何も求めていなかったのだ、そう思った瞬間に手が動いた。誰も想えないのならこの行動は何だ。そもそも俺は何でこんな生き物に成り下がったんだ。俺だって充分矛盾だらけじゃないか。暫く後に吐かれた久々の精液は湯の中をゆらりゆらり漂って、泡と混ざってどこかに行って仕舞った。くらり、眩暈を感じたのは、吐精した脱力感にくわえ鼻の奥に残る血の匂いと石鹸の酷いそれが混ざった所為だ。決して、漸く自分に絶望出来たからなんかではない、絶対に。





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110721の日ということで…すいません

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