未熟策士 | ナノ




冬を舐めて掛かっていたつもりはないが、外は予想以上に寒かった。昨日まではこれほどの寒波を感じてはいなかった、しかし昨日から今日の間に突如として強大な冬将軍が降臨したわけではない。要は自分に原因があるというだけだ。
馬鹿げている。――しかしそれにももはや、自嘲してしまうほどに己を諦観していた。

早朝、いつもの面子と登校の途をゆく。道すがらやはり皆に指摘されたけれど、予測しきっていたことゆえ簡単にあしらうに済んだ。――そしていつものごとく、別集団との合流を遂げる。適当に過ぎる挨拶もそこそこに、さりげなく、高杉の隣に並んだ。他の奴らは各々散らばるでもなく集まるでもなく、の距離を保って他愛ない話をしている。

ふと、ほんの一瞬、手が高杉のそれと触れた。そこで俺の変化に、昨日から失われたもの、に気づいたらしい。訝る眼が向けられる。

「……お前、」
「あ?」
「手袋。どした」
「なくした」
「この寒いのに?」
「片方だけ――多分昨日のバス」
「電話して取っといて貰えよ」
「面倒」

一言返せば相槌代わりに肩が竦められた。その儘たいした会話もなく、白い息を吐きながらただ道程をゆく。無言であったが――内心では自嘲とともに落胆していた。

なくした、だなんて真っ赤な嘘であった。ただ思い至ったのだ。冷えに冷えたこの手の温度にちょっとでも触れた高杉が驚いて、そうしてこの体温を、俺、の体温をたった一日でも、ほんの数分でもいいから覚えていてほしいと、そんなことを思ったのだ。

「新しいやつ買わねェの、手袋」
「……買うかな。意味なかったし」
「は?」
「何でもねえ」

ただ生じた誤算に俺は笑うしかなかった。よくよく思い返せば高杉が手袋を着けていることなど見たことがなかった。触れた高杉の手は俺と同じくらいに冷えていて――、つまり、高杉の記憶に残るほど、互いの体温に驚くような差なんてなかったのである。

「俺も買うかな、手袋」

――だからまして、俺が冬の始まりから着けていた手袋にその手を暖めて貰いたいばかりに高杉が毎日虚勢を張っていたことなんて、知る由もなかった。俺が手袋をなくしたという嘘に騙された結果、俺と同様落胆し自嘲していたことも、――それじゃあ今日学校帰りに一緒に買いに行くか、と誘おう否か悩んでいることも、誘えば途端、一瞬でも手を繋ぐ理由すら消えて仕舞う事実に怯えていることも、お互い、同様に。

馬鹿げている。――そう解っていたつもりがまだまだ俺は、俺達は、揃って幸福への距離を忖度し損ねていたのだ。





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恥ずかしさが売りです笑
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