犬を辞めた猫の言い分 | ナノ



猫は気まぐれ、というのは、可愛がるのを鬱陶しがって逃げる猫に拗ねた人間の勝手な言い分だと思っている。

実際こいつに可愛げはない。こちらの状況忖度なく一人を狙って、時に故意に一人にさせて、さあ相手をしろと笑うのだ。当惑困惑迷惑誘惑もろもろあって、きっと自分は面倒臭くなって仕舞ったのだろう。そこが落ち度といえばそうだし捨て猫を拾う人間の根底はこの程度のものかとも考えた。人の周りを着かず離れず、かと思えば長らく姿をくらまして、ちょっとは相手をしてやるかと思う時に限っていない。留守に苛立ちが募った頃合いにしたり顔で現れる狡猾さは見習いたいとも思わない。布団を占領された日は本当に厄介だ。場所によっては、いやよらずとも、それなりに周囲に気を張るし、爪も牙も容赦がないし、温まるどころか高熱に焼け落とされた意識が戻る頃には餌を求めて去った後。相手にさせられる身にもなって貰いたい。

いつか、去り時を追いかけてみようかと考えたことがある。死に際を見せないという話がそら迷信じゃないかと鼻で笑ってやりたかったのが半分、もう半分は――今はあまり考えないようにしている。しているのだが、今になってどうしようもなく涙が止まらなくなることがあって、本当に困っている。あの時、追いかけていれば。一緒に死ぬなど御免こうむる、だが今、寄る辺が見つからない今、自分に着かず離れず、幾日か顔を見せなくとも、この世にしっかといてくれるのを見に行きたくてやまない者がいないのだ。どうにも目を離せない、空気さえ引っ掻き壊すような危なっかしい輩が、手の裡を隠し何かに怯える奴が、どうにも焦がれて仕様がない。

もう金輪際面倒臭いなんて思わないから、たまには撫でてやるから、もう一度会いに来てはくれないか――そうしてやっと理解する。俺は猫以上に充分に気まぐれで、同時にずっと、拗ねていた。

もう出来ることは、引っ掻き壊そうとしていた空気に溺れ沈んで仕舞わないことを願うだけだ。せめて、ゆっくり、眠っていて欲しい。

お前がいないだけでどうだ、こんなにも、寒い。


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