三十一 | ナノ




考え方がおっさんなんだよ、流行りものには聡い癖に。

そう土方に苦笑されて仕舞ったのは仕方がないとはいえ心外である。元々甘いものは嫌いだと断言しないまでも、進んで頂戴するほどでもない。確かに固い考えやもわからぬ、今の日本は暦をあまり考えない方向に築かれているから――南瓜は冬至に食べるものだと言えば妙なことをと言われるし、かといって冬至に柚子湯を楽しむカピバラを馬鹿にしたらこれまた同じ反応なのだ。ともかくも、高杉は南瓜が嫌いだった。

今年のハロウィンにてアイスクリームショップからパンプキンプディングがリストラの憂き目に遭ったことを店頭で酷く落胆した土方に、そもそも今食べるもんじゃねえだろ、と否定形から慰めてみたらこれである。言い分は双方間違ってはいないが、否と主張して折れてやれるほど互いに思考の余裕はない。結局土方は他の種類のアイスクリームを買い、この冷えて来た時季に家路を辿りながら食べている。酔狂、が褒め言葉に当たるのかどうか。

お前南瓜嫌いなのか。まあな、悪いか。悪くはねえけど、どこがどうって思って。……野菜なのに甘い、とか、多分。西瓜は? そこ突いて来ると思った。まあでも、従兄煮は正気の沙汰かよって俺も思うけど。何だよソレ。南瓜と小豆を砂糖醤油で煮るやつ。狂気の沙汰じゃねえか。

うんざり、を通り越して笑って仕舞った高杉だが、今の今になって土方がアイスクリームなんてものを、それも何やらこだわりがあるふうに考えていることを知らなかった。土方からすれば今時に古風な趣を持つ高杉を知らなかったわけだが、冬の帳が迫り来る頃合いにあって、親しいと思っていた人物の新たな面を見つけるのは複雑である。この冬が駆け抜けて仕舞えばふたりそれぞれ違った道を歩き出す。なら深く知らないでおいたほうがよかった――少なくとも高杉はそう思った。土方は今のところ、そしてこれ以降も、学校の喫煙仲間でなければならない。いまさらになって色恋沙汰など持ち込もうと叶ったとて一瞬のこと、淡い期待はその儘消そう、煙草の火だっていつかは消える。終わりがあるから煙草は旨い。人生もきっとそんなもの――味わい噛み締める頃には尽きているだろう。

高杉はなぜか、土方のことに限っては常に諦念と期待を織り交ぜて見ている。好きなものは好き嫌いなものは嫌い、そうはっきりしている質であるはずと自認していてなお、友人他人あるいは――と、土方という存在のカテゴライズを躊躇うている。屋上の煙草呑み、それが果たして何と言えるのか。

そういえば俺もあんまり南瓜好きじゃねえ。無言でアイスクリームを食べていた土方が呟いた。じゃあ何だったんだよさっきのやり取りは。……期間限定に弱い、みたいな人間でありたい、みたいな。歯切れ悪ィな。俺もよくわかんねえわ、ハロウィンが何たるかわかんねえし。……要は盆だろ、知らねえのか。高杉頭いいのかひょっとして。土方馬鹿にしてたのかひょっとして。

少し間をおいて、諦めたように笑ったのが同時、もしかしたら内心ぎくりとしたのも同時かもしれない。本当のところ、土方もまた高杉に関しては諦めたり望んだりを繰り返している。今日一緒に帰ろう、誘うだけで結構な度胸を試された。どうせ気分屋だ乗らないだろう、気分屋だ、付き合ってくれるだろう。――どうしてこうも俺を悩ませてくれるのか、こいつは。

ソレ結構甘い感じか、などと訊く高杉も高杉だし、何なら食うか、そう応じる土方も土方だ。何ともないと掬った一口、手で受け取らずにスプーンに食いついた、そのプラスチックから伝わる高杉の歯の感覚と土方の手の熱に、今度は何を諦め何を望むのか。雑踏をゆきながら苦悩するふたりは少なくとも今この時の為だけに、衆目の存在は諦めている。




お題『噛みつく』
おかず面の南瓜が解せぬと鬼兵隊botで高杉が言っていたので

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