檻の澱 | ナノ




チリチリパチパチ、葉を閉じ込めた紙が中身とともに朽ちてゆくその音を、間近で聴きたいと思うことがある。

煙草というのは燃え尽きることがない。焼け、灰になり、しかしすべてを火に委ねる前に火を点けた当人に見棄てられる。指先が熱くなって来た、あるいは充分に煙を吸い込めた、いずれかの理由で火を消され、潰され、棄てられる。生があるとしたら何とも中途半端な最期だ。死を他人に決められて従う、そう思えば哀しくもあり美しくもある。人間に喩えるとどうだろうか? ――下肢のみ骨の、生を諦めた生ける上半身、といったところか。上半身が人間下半身が人外という想像上の生き物は世界数多尽きぬお伽噺、しかし骨は多分ないのではなかろうか。――生産性がないからか。

それを美しいかもしれないと考える、そこまででいいのだと自分を納得させることにして、手許の煙草に目をやった。するすると糸のように伸びては消える煙は死にゆきつつある証左――耳に近づけて音を聴いてみようかと思って、ふと、なにゆえ燃える音に想像がついているのか我ながら疑問を抱くに至った。この程度の素材が燃えるならばと無意識に予想したのだろうが、一度引っ掛かって仕舞うとなかなかどうして気になるものだ。

――俺にのめり込むのはいいが、火傷は覚悟の上だろうな?
――焼き殺せるほどの色男になって出直して来い。

冗談の応酬だったと記憶している。思えば結果、お互い出直してはのめり込みの繰り返しだった。終ぞ、なにゆえ煙管に拘泥しているのか訊けず終いだった。紙巻より遠い位置で少しの葉を燃す煙管は、紙巻に比べればきっと静かだったろう。もし彼が燃える音、を知っていてあえて煙管を呑んでいたなら、自分よりずっと繊細に過ぎることを考えていたのかも解らない。

想いを多少でも伝えられていたら、伝わっていたら、自分は本当に中途半端だ。心の一部を委ねた以上、自分はもはや完全ではない。彼はもういなくなって仕舞ったのだから、取り戻すにも出来やしない。そもそもかたちのない、だからこそ、大切なものだ――こういった、未練がましいものというのは。
いつの間にやら指先が熱い。皮膚のうわべを、火が一瞬撫ぜたように感じられた。勿論音は鳴らないし聴こえない。チリチリパチパチ、あああれは、焼けついて取り残された自分が鳴らした音か。俺は煙草とともに、お前のいない世界に閉じ込められて仕舞ったようだ。





ワンライお題・煙草

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