※ほりっくぱろっぽい 夜も更けり、匂いに誘われ向かった先行き、少し笑むのは小馬鹿にするよう。嗚呼またか、彼は頭を掻いては嘆息。 「今夜は何の小噺だ?」 闇に現れた縁側、そこに座って煙草を喫う男ひとり。――自分より幾らか歳を重ねた、しかしどう見ても自分であると確信できるほどに似た顔立ち、違いはといえば身に纏う着物と額を出した髪型。 「何にも楽しい話はねえよ」 「それが楽しいんじゃねえか。すっかりガキの面倒見が巧くなりやがって――あの手のつけようもなかったガキが」 「あんたがそう言うんなら、あのガキども俺の代わりにどうにかしてくれ」 「天の配剤ってやつだ。文句ならお天道様に言え」 にたりと笑うその顔は、やはり己と似ていると感じる。自分の笑顔など見たこともないのに――土方は煙草を喫うその隣に腰を下ろし、首回りのスカーフを寛げた。ようやくのひと心地。煙草は、訊かれて土方は首を振る。 「ここでまで喫うこともねえさ」 「そうかよ」 「つまらねえって思ったろ」 「そこまでガキじゃねえ」 「どうかな。――俺もあんたも、大の大人が人以外を怖がる」 今度は土方が小馬鹿にするよう笑んでやると、隣で煙草のフィルターが噛まれて上向きに曲がる。煙の流れが変わった。 「雷怖がって、俺を抱き締めて布団に潜ったのは――」 「忘れろっつってんだろ、その話は」 「あれが原因で、俺の恐怖の基準が決まったんだ。わけわかんねえモンは怖いってな」 「……俺の所為にするな」 額に手を当てて、気不味そうに悔しげに唸るさまへ土方は少し、ただ可笑しいというだけの笑みをこぼす。――こんな笑い方が出来るのは、ここ、でだけだ。 「それで」 「何だよ」 「話したいことがあるんだろうが。ここに来たんなら」 話の矛先を変えたかったか本題に戻したかったか、曲がった煙草を足許に投げての問い、そこで土方は笑みを引っ込める。――話したいことはあるが、巧く言えないのが自分だ。隣の男もそれを解っていることが尚更、語るを躊躇わせる。土方は少し黙し、やっぱり何にもねえよ、中空に向けて呟いた。 「あんたを見習いてえよ。妙なガキばっかり寄って来やがる」 「ってことは、面倒見てやる腹は括れてるわけだな」 「……同類を放っといてやれるかよ」 言うと、そういうこった、笑い含みの声が返る。 「ガキの面倒見るのは親の仕事とは言うが、親なんてのはガキを見て初めて親になり、成長出来るんだ。だからガキと同じ目線で理解し合うのはなかなかに難しい」 「……随分な屁理屈に聞こえるが」 「屁理屈捏ねるのはガキの特権じゃねえか。このガキ」 「ガキガキうるせえよ……」 隣から伸びた手が土方の髪を乱暴に掻き混ぜる。やめろ、なんていうのは建前のようなもの、土方は抗いもせずにされるが儘だ。いつかその整った髪にやり返してやる、とは何度も思ったことではあるが。 「――さて、そろそろ時間だ」 手を離され視線が落とされる。追った先、足許に転がった煙草が燃え尽きようとしていた。早いものだと思う一方、また語り尽くせなかった、と早々に諦観している己を土方は内心で嘲る。それに気づいてか、まあまた機会はあるだろ、穏やかな声音で言う。――煙草一本燃え去る時間が二人に与えられた猶予なのだ。何故だかはわからない。そもそも土方と彼が顔を合わせることなどあり得るはずがない――それでも、与えられた猶予に土方は感謝してはいる。歯痒さはいっかな消えないが、語り合えるだけ幸せなのだろう。たとえこれが――土方の都合の好い夢だとしても。 「じゃあまた――次の夜に」 今一度髪を撫でた男の姿が霞む。自分も同様溶け消える感覚を知りながら土方は、手の心地好さだけを感じていた。 目を開ける。外から朝の気配が漂って来ていた。土方はまず、枕辺の煙草を探した。布団に肘を突いて朝の一服――あの男に、あの夢の中で、教えられた煙草。深く喫って、息を吐いた。 「……また、呼び損ねた」 兄貴、ごく小さくひとりごちた単語はもう当人には届かない。ふ、と笑って、土方は煙草を咥えた儘起き上がる。――今日もまた、ガキの世話をする一日が始まる。 11/23がいい兄さんの日ということで副長と若かりし為さんでした 為さんもデコ出してるんだから顔くりそつでもいいじゃないかというアレ |