※いろいろ雑ですごめんなさい どれだけ騒ごうが解りゃしねェさ、程近くで囁かれたことが多少、恥というものを削ぎ落とした自覚はあった。あくまで多少だということもまた――他の客らは窓辺から風情を女片手に眺めては酒を楽しんでいることだろう。花街とて性のみを求める場ではない。夜空を賑わせる夏の風物詩を愛でるのもまた、お国柄にして異邦人も何故か倣うことは貴賓の警護に当たる度、学んで来たことだ。それを――夜はまだこれからという時間に、土方は久方振りの会瀬に溺れている。今日に関してはもしかすると、溺れさせている、のかもしれない。 「あんまり、慣れてねェってことは、――俺相手が初か」 「っ、は……、誰が好き好んで、こんなこと――ッあ、」 「野暮なこと訊いて悪かったよ。続けてくれ」 笑みの浮く声は頭の上からだ。高杉の脚の間に埋めた土方の顔にはすでに余裕がない。高杉の爪先が袷を割って気まぐれに土方の下肢を擦るを繰り返している所為だ。どうにか無視しようと舌を伸べる、そこに先ほど執拗に食い合った口づけから絡んだ高杉の唾液がまだ残っているだろうか、そんなことを考えようとする――悟られたか小さな笑い声が聞こえ、既に勃ち上がっているところを高杉の脚の親指がぬるりと這い上った。思わず声が漏れた、しかしそのおかげでどこかしら吹っ切れた――残存する恥がまたも削げた。腿に爪を立て、こちらもまた反応あらわな下肢から舌を離し、そこへ頬を擦り寄せて見上げてやる。こいつには負けるが質の悪い笑みを浮かべていることだろう、自覚しながら土方の向けた視線の先にはやはり、質の悪い笑顔があった。同時、空に響いた音がもたらした光の洪水の所為で、土方の目に映ったその顔は酒とは違う酔いのようなものを頭に寄越す。 「意外と、やってくれるじゃねェか」 「……やられっぱなしは、性に合わねえんだよ」 言って視線を外し、再び舌を伸べながら口を開いた。解らないなりに先端を突き、何度か舐め回してからなお深く咥え入れる。歯を立てぬようにとは辛うじて考えられた。舌と唾液とを絡めるうち我知らず、腿に立てた土方の爪はいつしか事に及ぶ度背中に掴まるそれと近い力が込められ、高杉の爪先の悪戯も収まっていた。花開かせ続ける夜空にはもう、頓着さえない。 「んッ……っふ、ぅ」 「土方、」 「……はぁ、ッ」 名を呼ばれたことで土方は顔を離す。おまけとばかりにちろ、と舌先ひとつ擽りを残すと、高杉の笑みが一瞬しかめられた。それもまた愉しかったが、本来は愉しませるのが――溺れさせるのが目的だ、多分。身体を浮かせて腿の上に跨がると、高杉も思惑を察したらしかった。 「知らねェぞ、切れても」 「ちょっと待ってろ――これ」 「あ?」 「……『男を騙すアレ』、だとよ。女郎に売って貰った」 「その女は」 「妬くなら後にしろ。……滅茶苦茶に抱き潰して八つ当たりすりゃいい」 いわゆる潤滑剤は真実、女郎から買ったものだった。抱いてくれたらタダにする、との申し出は冗談だったろうが、売って欲しいと頼んだときの、そんな美形が男相手するなんてあんた、何人女を泣かせる気だい、との悪態めいた口調には辟易したし、更に続いて言われた、あんたが陰間ならあたし以上に稼げるだろうさ、にはさすがに落ち込んだ。この目の前の変わり者の他に自分を抱く輩がいるとでも――こうも率先して抱かれるとでも。 瓶からとろりと掬い上げて指を後ろへ回す。解す間、近しくある性器同士が触れ合い、身体を震わせれば自分の指が内壁に締められるのを幾度か感じた。さりとて恥を感じることがないのは開き直ったか、恥の存在を忘れ去ったか。 「いい眺めだ」 ク、と喉を鳴らした、その姿が自分の影の外で火花の明かりを浴びている。白い肌がうすら橙に染まる姿に目眩を覚えそうになるも、土方は奥を広げるよう指を動かした。高杉はどうやら土方の言通り滅茶苦茶に抱き潰す腹積もりなのか、手を土方の性器に触れ始める。 「あ、っや、やめ、ろ」 「どうせテメーの指で感じてんだろが。勝手にイかせるぐれェなら俺にさせろよ」 「ッばか、ぁ、あ……ッぁあ!」 思わず指はずるりと抜け、しかしその指以上のものを待ち望むようにひくついたのを自認しながら土方は、高杉の下肢から腹へ精液を飛ばした。荒くなった呼吸と裏腹身体から力が失せようとするのをどうにか持ち上げる。そこで耳にやっと、聴こえなくなって久しい夜空の破裂音が耳に届いた。ふと高杉が口を開く。 「この花火が――」 「え……?」 「俺を祝う為にうちの馬鹿どもが仕込んだモンだとしたら、どうする」 「何言って――」 「馬鹿だと思うか? ……一夜の情緒を、こんな歳になって色恋に狂ってるのは」 「……別に」 ようよう身体を持ち上げた土方が、問いの内容とはそぐわぬ無表情にいる高杉を見下ろした。何度も交わした行為と言えど、自分から呑み込むのは初めてだ。怖くないこともないが――そうだ、高揚している。 「何とも思わねえよ。……お前を馬鹿と決めれば、俺はそれ以上の大馬鹿、になっちまうからな」 そろりと腰を浮かせ、先端を宛がう。ゆっくりと腰を沈めつつ、手伝おうとする高杉の手を払った。確かに馬鹿らしい、高杉が言うのを辛うじて苦笑で応えた。すべて体内に収め、長く息を吐いた土方の頬に高杉の手が伸べられた。 「――今更だが」 「何、だよ」 「愛してる」 ひとつの眼が、これを真摯と言わずどう比喩出来よう視線を寄越した。思わず怯んだ――心臓がどくりと打った。視線を囚われ動けなくなったところを、突如高杉が動いた。せっかく慎重に身体に埋めたにもかかわらずこちらを忖度するつもりがないのか、頬に触れていた手でもって土方の身体を横倒しに転がしたことであっさりと抜けて仕舞った。反射的に睨むと高杉は土方を仰臥させ、鼻先近くまで寄った顔をらしからず優しい笑みを見せる。 「絶景は見飽きた」 「な、……おっ前」 「なかなかいいモンだぜ? 愛する奴が花火背負ってテメェの為に必死になってるのを見るのはよ」 「――高杉」 「見とけ」 「ッあ、ぁ!」 顔が離れた途端脚を割られ、とうに慣れむしろ待っていたところへ性器を突き入れられた。上げた悲鳴はやはり悦ぶそれで、愉しませるつもりが自分も得をするようだ、情けなさが過ぎったが、滲んだ涙はそんなものの為ではないことくらい自明だ。より反応するところを突いたりあえて避けたりと、高杉はもはや土方を知り尽くしている。――おそらく、口づけが出来ない角度の体勢を土方が好まないことも。手を伸べれば当たり前と唇が近づいて、互いに触れるのが唇が先か舌が先か、縺れた食い合いがとても久し振りに思えた。 「んっ……ぅ、ぁ、……か、すぎ」 「悪かねェ、だろ」 とろりとした視界、汗の浮いた高杉の顔、その背に遠く、咲き散る火のはなびら、すべてが土方の心身を焼いている。言われた通り抱き潰すからな、今更すぎる科白に多分土方は笑んでいた。わざと性器を締めつければ、やはり高杉は顔をしかめて、そして土方は悪い笑みを浮かべる。 「どれだけ騒ごうが解りゃしねえ、んだろ」 背中に手を回す。高杉は土方の片脚を担ぎ上げる。土方は喉を晒して喉が裂けるほどに鳴いた。声を抑えるほど、たいていの男は悦ぶと女郎に聞いたが――。 互いに正直に、嘘であるべき関係を肯定する。その一夜を愛でるのを片隅に、花街は一夜の夜空を愛でている。 言質を取られたので書いた そこそこ後悔している |