土方 | ナノ




樹をぐるり囲うように、しかし真円を描くことなき歪な道は、幾多の鳥居が被うによって道と成されていた。昼には木漏れ日に朱を鮮やかにしようが、如何せん陽はとうに空から退いている。静謐なこの一画がいっそ重苦しいほどの墨色に押し潰されんと見えるのは、お世辞にも新しいと言えぬなりであるからか。時とともに朽ちているからか。――その朱が昏い視界に、先ほど散々浴びたものと近しく映るからか。地に刺され動かぬ累々たる鳥居は、戦場の有り様に見えなくもない。暗闇に打ち棄てられようとこうも静謐にただ空を見上げられるならば、ならばいっそ、死体になるのも悪くないと思う。しかし――朽ちてはあれど神秘性を孕むこの場に、血と屍臭に凝った戦場を見いだすは下賤であると思われた。だが己は果たして、下賤の最たるものとも思われた。少し笑って、ふらりふらり鳥居の道を往く。さながら千鳥足で鳥居を潜らず八の字を描くよう傍らを左右交互にすり抜けた。事実血に酔っていることは確か、こうしてこの世からもすり抜け墜ちて仕舞えばいいと思った。自棄を起こしたわけではない、ひとつの結論であった。道すがら祠に差し掛かる。何を祀ってあるかは知らない。佇み歪んだ円を成す無数の鳥居が本殿に比べ全てが小さなそこは鳥居に反し朽ちるを知らず、小綺麗であった。月明かりに飴色の艶がぬらと光る、それは鳥居の朱よりも生々しく、かけ離れた色にも拘わらず鮮血をいっそう現実的に感じさせた。――生きているのだな、と再び笑う。血が乾かぬは生きている証、対して鳥居は少しもその色を鮮やかにしない。死者に囲まれた小さな世界を観たようであった。この中に、この世界に収まりたいと願った。この世はもはや広すぎる。空を見上げる死者達が佇む只中にひっそりと在る、それが今の、そしてこれからの、理想であった。叶いはせぬ願いをそれでも望んだゆえ、賽銭箱へ今持つ精一杯を投じた。生憎持ち得ていたものは煙草の吸殻、だからきっと願いは届かず、罰当たりめがと謗られよう。ならば神とやら、雷でも何でも構わぬ、この身をどうぞ打ち据えてくれ。この鳥居の数を凌ぐ者達を殺めた、そしてただひとり守れなんだこの身をどうぞ燃してくれ。そして我儘を重ねられるなら――この悪夢から、目を醒まさせてくれ、と。しかし投じたのは吸殻、だから願いは叶うことなく現を訴える。あのただひとりがいない世を被う空は、やはり重い儘だ。笑った。恐らくこれが自身最後の笑みと、そう思われた。





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高←土のつもりだったのになあ
場所は鬼子母神をいめーじ。あの場所大好き。

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