銀土(企画)4 | ナノ



何度夕陽を観ただろう。橙の海を宇宙艇が無粋なテールライトを描いて飛んでゆく。彼はもうすぐ帰るだろうか。最初はそれ、が怖かった、しかし今や帰ってきてくれないことのほうが恐怖で背中に汗を浮かべる。俺にそっくりな俺の偽物はちゃんと俺の代わりに何食わぬ顔で仕事をしているだろうか。隣のビルの屋上で勤め人が煙草を吸っている。前は俺もあんな感じだったんだろう――誰が造ったか知らないが多分きっと俺にそっくりな俺の偽物は俺のかつての職場で指揮を執っている。それすらどうでもよくなりつつある自分を能動的に受け入れた。ワイシャツ一枚だけ着た身体のあちこちに残る昨日彼に吸いつかれた跡を眺めては満足する。今晩またそれ、が増えると思えば尚更。粘着テープで両手首を両手足に各々拘束された身体を無理矢理玄関のほうへ向けた。五時。彼が帰って来る。がちゃり、開いた扉におかえり、と言おうとした、が、入って来たのは別の男達。無線か何かで曰く――副長御本人救出しました、引き続き旦那――坂田本人の捜索に当たります。何人もの手が俺から粘着テープを剥ぎ取って黒いコートを肩に掛けてくる。大丈夫ですか副長、あの偽物は捕らえてあります、あなたを監禁した坂田は現在捜索中ですのでご安心を。――ご安心をだと? 俺は彼を、あいつを、あいつのすべてを待っていたのに、それが畢竟安心に繋がるわけがないだろう。なあ、何で解った? 茫洋たる質問に部下は至極真摯に、タレコミがあったんです、――旦那の、偽物から。……嗚呼、あの偽物は彼から俺を奪うつもりなんだ。今までされてきた監禁と同じ方法で、あれ、は俺を我が物にしようと――悪寒が走った。あれ、は彼本人をも殺すだろう、俺の為なら。驕った考え方ではあるがそれはきっと事実で、だから俺は肝腎要のただひとり、大切な彼を失うことだけを悟り、堪え切れずに吼えた。部下達は俺に駆け寄っては大丈夫です大丈夫です大丈夫ですと繰り返す。どこが大丈夫なものか。俺はもう――彼に愛されることなどないというのに!





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