銀土(企画)3 | ナノ



バリッ、と、音を伴うような報せが俺の耳に入ったのは昼と夜の間であった。バリッ、直しようのない罅からは今もペキペキパラパラと新たな小さい罅達を生んでは破片が胸の辺りに降り積もる。解っていたことではあったが俺はもしかしたらあいつも、幸福という自分達には程遠かった筈の感覚に麻痺していたのかもしれない。それは殊、あいつの立場なら尚更危険なことであった。俺はバリッという音を聴いてすぐバイクをかっ飛ばしてギア入れっぱなしにしたのを忘れてウィリー起こして危うく事故になりそうな体であいつの許に辿り着いたけれど会えるはずもなくてならば勿論出来ることもなくてしかしその儘帰る気にもなれなくて仕方なく屋上に登った。空が橙に染まり始めていて一番星が見えた。嗚呼、なんにもすることがない。こんなところでぼんやりしていたらきっとあいつはさっさと帰れガキどもが待ってんだろだなんて悪態を吐くのだろうけれど残念ながらお前のところへ俺を送り出したのはそのガキどもだ。珍しくもぐずぐず泣いていたガキどもだ。朝一緒に納豆ご飯食ってお前の作った味噌汁の具に文句垂れながらも感動していたガキどもだ。おかげで銀さんお前の作った味噌汁飲みっぱぐれて口の中べたべただったんだからなまた味噌汁作れよ馬鹿野郎。少し笑う俺の目の前で夕陽が緩慢と落ちてゆく。そういや知ってるか、火星から見る夕陽って青いんだってよ青、今度確かめに宇宙旅行行こうぜガキどもはやかましいからお留守番係にして火星行こうや、とまで考えて俺の頭がついに現実逃避を始めたのだと悟る。またしてもあの、バリッ、という絶望的な音が響いた。やおら走る悪寒に自分の身体を抱き締めて、少し落ち着いたところで再び空を見た。海月のような月が橙に透けている。幽霊みたいだ。――嗚呼もうまじで駄目だなあこの頭は哀しいことしか思いつかない。俺はお前がいないとやっぱり駄目みたいだよ土方、こんな広い空を綺麗だとさえ言えなくなって仕舞うんだ。だから早く出て来て俺の隣に立ってくれよ。バリッペキペキパラパラはもうたくさんだ。お前がいないと俺の世界は跡形もなく壊れて仕舞う。――ICUの扉は開かない。土方は未だ、空の美しさも知らずに眠り続けている。死ぬな土方死ぬな死ぬな死ぬな。バリッペキペキパラパラ。死ぬな、土方生きてくれ。





* * *

企画『残焦』さまへ
×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -