嫉妬する女は嫌だとか、嫉妬する男は格好悪いだとかよく言ったもんだと思う。そんな文句を一丁前に並べておけるくせに、結局自分が誰かと仲良くしていると恋人に嫉妬してほしいだなんてただの我儘だ。
私は別にどっちだっていい。多分、自分はしない方だ。いや、限度はあると思うけれど。仲良く喋ってただの、それくらいなら気にする範疇のものじゃないと思う。


「ういっす、みょうじ」

「やあ、田中くんじゃん。どうしたの?」

「ノヤっさん居るか?教科書忘れちまってよ」

「西谷……あれ、今見当たらないね。よかったら私の貸すし、部活の時にでも西谷に渡しといて」


結局その案に落ち着き、私は机の中から引っ張り出した教科書を田中くんに手渡した。恩に着る、とぱちんと両手を合わせて頭を下げてくるので笑いながら大丈夫だと伝える。そうして丁度田中くんが教室を離れた時に、西谷が帰ってきたのだ。
ちなみに、私のお付き合いしている相手が彼である。偶然にも今年もクラスが一緒になり、万々歳だ。

さて、今日は部活が終わり次第彼の家へ訪問することになっていた。別段珍しいことでもない。単に駄弁って、いい具合の時間になると適当に帰って行くのだ。私の家は厳しい方ではなく、事前に連絡さえ入れておけば咎められることはなかった。
先ほども言ったが、珍しいことでもないのだ。いつも通りのことのはずなのに、今日は少しだけ西谷の様子がおかしい。喋ってくれる言葉が少ないのだ。彼の家へ着くまではほとんど無言に近かったし。


「西谷、何怒ってん……」

「あー、どうしよう。今の俺、すげえ格好悪い」


何が、と聞こうとした瞬間に、西谷の顔が近づいてきた。噛みつくようなキスってこういうことを言うのかなんて考えてしまう。でも、それだけじゃない。いつもよりずっと荒々しいそのキスを、何度も、何度も。
ゆっくりと倒される体は、ベッドに沈んだ。突然のことだった。いつだって、こんな風に強引に触れられたことってない。


「にし、のや……待って、なに」

「お前が龍と仲良くしてんの見たら、何かちょっと」

「何で?そんなこといつも言わないのに」

「そうなんだけど、自分でも、分かんねえよ」


掠れた声で呟く西谷の眼に浮かぶのは、はっきりとした嫉妬の色。こんな時にほんの少しでも、嬉しいとか可愛いとか思ってしまうのは不謹慎か。西谷でも、そういうこと考えるんだ。
などと余裕に浸ってもいられなかった。西谷のキスは止まりそうになく、首元にまで下りてくる。指が、服の上から体の線をなぞっていく。身を捩っても、逃げられそうになかった。


「だめ、西谷」

「嫌ならぶん殴ってでも逃げてくれ、すまん、止まりそうにない」

「そんなこと言ったって」


死ぬほど恥ずかしい。今からますます恥ずかしいことになるのは分かっている。それなのに、口をついて出るのは拒む言葉ではなかった。


「だめじゃ、ない……」


その声を捉えた瞬間、西谷はまた私にキスをした。




行かないでとその指は語る
(大丈夫、ここにいるから)