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俺、好きなんだ、おまえのこと。言ってみて、やっぱり何か違うなと思う。いや、好きだってことに違いはない。そうではなくて。俺がそれを口にしても、なんだか、本当に好きだってことが伝わらないような気がするのだ。…知ってるけど。何、急に。俺の好きな相手は、まともに怪訝な顔つきになって携帯ゲーム機から顔を上げる。別に俺が勝手に好きなだけなので、芳しいこたえなど端から期待していない。ただ俺は、俺の言葉や態度に現実味がない気がして不安になったのだ。ほんとうに好きなのになにひとつ伝わっていない気がする。もしそうだとしたらそれは相手が悪いのではなく、俺のアプローチに問題があるに違いなくて。すうと吸い込んだ空気はひんやりとしていた。あの、俺。ほんとに好きで。俺は俺なんかのこと何とも思ってないおまえが好きだしたぶんおまえのすることなら仮に殴られても嬉しい、んだと思う。だから別に何されても文句はないし、俺。だから、おまえはいつでも、こんなの捨てていなくなってくれていいよ。大事なことは目を見て言えと啓発本で読んだので、まっすぐに顔を見つめて言い切る。俺が話すあいだ、相手は怪訝な顔のままぴくりとも動かなかった。ゲーム機からは軽快な音楽が聴こえてくる。沈黙はそのBGMのフレーズが二周するまで続いた。相手は固まったままだ。俺のほうが耐えられなくなって、…好き。付け足した言葉は、気まずくて目を見て語ることができなかった。やはり何を言ってもいまいち伝わらない。俺も怪訝な顔になりながら、握った自分の手を見下ろす。別に受け入れなんか望まないから知っていて欲しいだけなんだけど、うまくいかない。意を決して、普段の五倍は喋ったんだけどな…。と思っていると、…へえ。そう。と声が届いた。咄嗟に顔を上げる。その頃にはもう相手の顔はゲーム機に向いていて、どういう顔で言ったのかはわからなかった。えっと、あの、好きです。くどいと怒られそうだなと思いながら重ねる。知ってるって、ばか。今から中ボスだからちょっと黙ってろ。そう言ってレトロゲームに興じる相手は、しばらくここから去る気はないらしい。それが嬉しかったので、俺はしばらくその横顔を見つめた。




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