( あいまい )





「ヤン―、セックスさせて」語尾にハートマークすら垣間見える素敵な笑顔で迫られて俺の時は止まる。させて、と声音は許可を仰ぎながらも行為は強引だ。つよい力で引き寄せられて、引き結んだ俺の口元を舌が辿る。限界まで背中を反らせても逃れられずに、溺れる人間みたいに天井を仰ぎながらなんとか言葉を紡いだ。「そ、そ、そんなかわいく言っても駄目ー!」我ながら感心するほどに間抜けな返答である。それほどにいっぱいいっぱいであったということは察して欲しい。自分の流されやすい質はじゅうじゅう理解している、つもりだ。そう何度もこういった不埒な行為に流されていてはいけない…いけない。言い聞かせるようにして目も口も強く閉じた。奴の舌から逃げるべく逸らした背中が痛い。どうしようもなくぶるぶる震えていると、ふと、奴の手の拘束が緩んだ。俺は驚いて、うっすらと目を開ける…、「…駄目って。駄目とか。じゃあいいし、別の奴に頼むから」眼前の奴はつまらん拗ねた興ざめであるなどと言った文句を極太ゴシック体で顔面に貼り付けていた。そして俺を囲った熱が離れていくー…、俺は慌てた。別の人とだなんてそんなのは。「ご、め、駄目じゃない。駄目じゃねーから、あの、俺。」なんて身も蓋もなく元も子もない有様だろうか、と自分でも思う。駄目なんて言ってぜんぜんだめじゃないなんてどうかしている…のに。慌てて縋った袖口から視線を上げると、いたずらが成功した子供みたいなしたり顔に出会す。「ふうん。だめじゃねーんだ?」その親指が俺の下唇を押す。無意識に口元を引き結ぶ。「だめじゃねーなら、おまえから、口開けな?」やさしい声音。前歯に引っかかる親指の爪。無意識にごくりと唾を飲んだ。なんでこんなに意思が弱いのか、だめだだめだ、警鐘はどこか彼方で鳴っている。しかし遠くの火事なんて所詮他人事だってみたいに、いまの俺のすべては、目の前の男の指先ひとつに奪われた。目を閉じる、唇が震えた。
口を開ける。




おわり

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