Screw(修正) | ナノ

 目が覚めて、ここはおそらく病室で、オレは記憶が無くて、オレを保護したという男性はやたらと笑顔を浮かべている。何も分からないが、一つだけ分かることはある。
 吉木さんの笑顔はイビツだ。
 そもそも、何故吉木さんはこんなに笑っているのだろうか。理由が見当たらない。理解不能だった。

 吉木さんから見せられた社員証には、シロノグループ、と書かれている。見る限り、どうやらオレはそこの研究員だったようだ。
 もっと分かることはないかと見つめていると、ノック音が響いた。
 何かを言う前に入ってきたのは、白衣を着た男性。


「ああ、ようやく起こしたか。まだ起きていなかったら、」
「あ、コイツはお前の主治医の飯田。お前をなおしたんだ」
「……ど、どうも」
「貴様は……いつもいつも人の話を遮るな!」
「光は黙ってろよ」


 吉木さんがさっきまでとは打って変わって、射抜くような目で飯田さんを睨んだ。オレに向けられたわけじゃないのに、背筋が凍る思いがした。
 ミツル、とは飯田さんの名前だろうか。飯田さんの口ぶりからして、二人は知人のようだ。
 だとしても、仮にも主治医に対して黙れ、はないだろう。
 飯田さんは呆れたようにため息を吐くと、構わず話しだした。それを、吉木さんが暗い目で見つめている。


「黒崎裕太」
「あ……はい、オレ、ですね」
「ああ。貴様は一ヶ月程意識がなかった」
「い、一ヶ月……」
「それほどにも長い間意識がなければ当然身体機能にも影響が出る。故に今から僕が色々と調べさせてもらう」
「はい、分かりました」


 断る理由はない。素直に首を縦に振る。オレは一ヶ月も意識が無かったらしい。ともなればチェックやリハビリは当然だろう。
 オレの反応に満足げに頷くと、飯田さんは吉木さんに視線を移した。


「それでいいな? 吉木」
「……黒は、お前の……じゃない」


 なぜ、吉木さんに許可を取るのだろうか。
 首を傾げていると、吉木さんが低く、小さな声で何かを呟いた。呻き声にも近く、オレにはちっとも聞き取れない。飯田さんには聞き取れたようで、鼻で笑うと、吉木さんに向かって言葉を続けた。


「お前がなんと言おうと検査はさせてもらうぞ。一ヶ月の昏睡と同じだ、肉体のことを考えてもこれは必須事項だ」
「じゃあ、俺に見張らせろ」
「勝手にしろ。黒崎、検査に行くぞ。立てないな? 吉木、車椅子に乗せろ」
「え、あ、」
「言われなくても」


 よく考えれば、一ヶ月も寝たきりであったなら、筋力低下も並のものであるはずがなかった。車椅子に乗せられ、吉木さんに押されて無機質な廊下を移動する。
 なんとなく見上げると、真顔の吉木さんと目が合った。それからにっこり笑った彼を見て、オレは確信した。この人は、異常だ。


「あ……の。すみません。車椅子」
「気にすんな、裕ちゃん」
「裕ちゃん?」
「裕太だから裕ちゃん」
「はあ」
「お前は黒崎裕太だからな」


 濁った茶色の瞳。
 吉木さんの笑顔は、やっぱりイビツだった。


2015.10.13


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