あの日も、今日のような豪雨だったらしい。以前、一度だけ、彼から聞いた、運命の日の話。河原で意識を失っていた俺を"保護"したのは、彼だった。 俺が覚えているのは病院で目を覚ました、その時からの記憶だけ。 その前に何があったのか、俺はどんな人間だったのか、なんでそんなところで倒れていたのか、一切分からない。 けれども、それを疑問に思うことは無かった。彼は当然のように俺を受け入れ、俺は当然のように記憶を探そうともしなかった。 きっとそれは、当然ではなく、必然だったからだ。俺が記憶なんて、持っているはずも無かった。答えは実に単純で、残酷だった。 記憶などというものは、不確かで、不明瞭で、それでいて人を歪める程に恐ろしい存在なんだ。 2012.07.09 2015.10.06 大幅加筆修正 ←back |