Different World


※OSIRIS 12章ネタ





「引退する……!?」

どういうことなの、となまえは思わずラファエルに詰め寄った。自分の病気が悪化していることを告げられた診察の帰りに、愛しの彼女に自分の中にある気持ちをラファエルが伝えたのだ。



「ああ。それに自分の希望をかけてみたいバンドも見つけた」

不思議と絶望的な気分ではなかった。あのOSIRISというバンドに出会えたおかげだろう。自分のすべてを彼らのためにぶつけて、彼らを上へと導いていけるのなら、それでいいと思ったのだ。

思っていたよりも明るい表情になまえは悲しくなった。彼のギターが好きだったからだ。それがもう2度と聞けない、一緒にセッションできない―――それがとても堪え難い苦痛なのだ。どうしても彼にギターを続けて欲しい。

「引退してからもリハビリを続けて復帰したギタリストはいるよ」
「……」

そう思ったなまえは、前例があることを告げるが、ラファエルは黙ったままだ。彼の奏でるギターの音色が大好きなだけに、復帰はもしかして考えてないのかもしれないと思うとなまえは不安になる。そんな彼になまえは自分の本音をぽつりともらした。


「……私、あなたの奏でる音色が大好きよ。失われて欲しくない」

ギター1本で生き抜いてきた当事者であるラファエルの方が断然つらいはずなのに、話しているなまえの方が涙が出そうになる。

「また2人で一緒に歌おうよ…」

私が歌って、ラファエルがギターを弾いてバックコーラスをして。お遊びみたいなもので本格的なものではなかったけれども、あの瞬間はとてもおだやかな気持ちになれた。あの時のことを過ぎ去った戻らぬ幸福にはしたくない。

「…そうだな。私もあの穏やかな時を過去のものにはしたくないな」

2人でそうして過ごしていた時のことを思い起こしながらラファエルは気持ちが穏やかになっていくのを感じた。確かにあの瞬間は私の宝物だ、できれば今後も失いたくはない。ラファエルはふっと微笑む。しかしその表情は寂しそうだ。

そんなラファエルを見ていると、なまえの胸ははりさけそうなほどにつらかった。もう2度と戻らない時にはしたくない。

そんな彼女の気持ちが伝わったのか、ラファエルは苦笑する。自分だってなまえと一緒にセッションするのは好きだし、それを抜きにしてもなまえのそばにいたい。


「……勿論、引退してもリハビリはするさ。…そばにいてくれるか?」
「そんなの……決まってるじゃない、ずっとそばにいるよ」

そう言ってなまえが微笑めば、ラファエルの表情も緩む。そして、泣きそうになっている彼女を優しく抱き寄せて、顔を近づけるとそっと顔を傾ける。ゆっくりと唇が触れ、やさしく食むように口づけられた。

やわらかな唇の感触を味わうかのように何度もキスをされる。まるで誓うかのような口づけになまえは安心し、彼にすべてを委ねた。

何度も触れるだけの優しいキスをした後、ちゅっと音を鳴らして彼の唇が離れる。ラファエルの甘い瞳がおだやかな色でなまえを見つめていた。


「引退試合を彼らとすることで、私もまた違う世界が見えるかもしれない。その世界を、なまえと一緒にみたいんだ」

誓いの言葉には程遠いかもしれない。けれど、なまえと未来を歩んでいく決意がそこにはこめられていた。

「あなたの隣でその景色を見させて」
「ああ、約束だ」

そう言って、ラファエルは微笑んでなまえを抱きしめる腕に力を込めた。




タイトルはVandenbergの曲名より。リハビリして復帰したギタリストはVandenbergのエイドリアンを重ねていたり……。
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